14年目のクリスマス
「サキ。車でドライブでもしようか。
この近くに、小さいけど教会があるんだ。
今日はパイプオルガンで賛美歌を演奏している。
そろそろライトアップもされているだろうから、きっと綺麗だよ」


サキはこの提案に一瞬、目を輝かせた。
が、すぐに顔を横にふった。


「ううん。いいの」


「ここは何もなくて退屈だろう?
教会も退屈かもしれないけど、ここにいるよりはいいと思うよ。
クリスマスに行く、
森の中の教会。
きっと素敵だと思うよ。
行きにガラス工房があるから、おみやげも買えるよ」


サキはちょっと考えるように唸ってから、また首を横にふる。


「クリスマスの教会も、ガラス工房も魅力的だけど、ここにいたいわ。
だって、パパと家でゆっくりするなんて本当に久しぶりだもん。
それに、こんなにリラックスしたパパの顔を見るの初めてよ。
いつも穏やかな顔をしているけど、今日のパパ、心から安らいでいるような顔をしているもの」


サキの言葉に、ドキリとする。

仕事でなかなか構ってあげられなかった罪悪感と、そんな自分を気遣ってくれるサキの心遣いに、目の奥が熱くなる。

必死で隠していたつもりだけど、どうやら無駄だったようだ。

子供は親のことを良く見ているんだな…。


「私なら大丈夫よ!
今日の晩御飯は、私が作るって約束したでしょ?
だからそろそろ作り始めなきゃ!
田中さんにレシピを書いてもらったから、きっと上手くやれると思うの!」


田中さんとは、サキが小さいときから面倒をみてくれている家政婦さんだ。

50代後半の田中さんは、サキのことを孫のように可愛がってくれる。


「だからパパは、ゆっくり読書でもしてて!
出来たら持ってくるから!」


サキの手によって、半強制的にまたソファーに座らされた。


「きっと美味しいの作るから、期待しててね!」

「ああ。楽しみに待ってるよ。ありがとな」


手を伸ばし、サキの頭を撫ぜる。

サキはそれに応えるように、1つ笑みを浮かべて、リビングから出て行った。


せっかくの好意だ。
素直に受け取ることにしよう。

再び、文庫本のページをめくった。







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