遺言ノ花嫁

3章 隠された真実

_______________ 3章 隠された真実





涙は出てこなかった
ただただ一枚、一枚
記憶にはない思い出を遡った。

1992.02/15 小春誕生
寝ている赤ちゃんの写真の横に書かれた
丸い文字は私の知らないお母さんのものだった

私はお父さん似なんだと言うことを
初めて知ったし、
私を抱き上げるお爺ちゃんは
とっても楽しそうで
どれもこれも私の知らない
覚えていない記憶がこの2冊に
沢山詰め込まれていた。


「小春さんのお爺さんは藤堂会という関東一大きな組織の会長でした」

椎名さんは私の隣にゆっくりと腰を降ろして
ポケットからさっき私が押し返した遺書を取り出した

「3年前に肺がんを患い、二日前息を引き取られたんです。」
「そう…なんですか」

覚えていない記憶が刻まれたアルバム
心底悲しめない自分が少し嫌だった

「小春さんの御両親の車には会長も乗るはずだったそうです」
「え?交通事故じゃないってことですか?」

「表向きはそういう事になってますが、ブレーキに細工された跡が。うちは敵も多い。未だに犯人は分かってません。会長は残された貴女を施設に預け、貴女の安全を生涯見守っておられました。」

怖さからなのか、背筋がゾワッと凍ったように寒くなった

まるで何かの映画の中に入ったかのような
話の内容にただただ、ぼーっと
椎名さんを見つめるしかできない

「会長は貴女の施設に毎年多額の援助を。貴女が今の会社で働き出してからもお近くまで様子を伺いに行かれていました。」

「そんなこと…私何も知らずに」

「貴女に危害が及ぶことのないように、今日まで他言無用でしたので当然です。この話を知っている人間は私含めて先程の方々しか知りません。」

「そうなんですか…」


私の周りがそんなことになっていたなんて
私だけがそれを知らなかったことに
ショック受けてるのか、悲しいのか
言葉に言い表せない気持ちで胸が覆われていく

「貴女に失礼を働いたこと、深くお詫びします」
「いえ、まぁ、死ぬほど怖かったですけど」
「申し訳ありません」

畳に手をついて深く謝る椎名さんに
ええ!?と私が慌ててしまった

「いいですいいです!事情は分かりましたから!そんなことしないでください!」
「椎名 蓮《シイナ レン》と言います」

突然の自己紹介!!!と突っ込みたかったけど
どう考えてもそんな空気ではなかったからぐっと我慢した。

「色々と細かいお話や聞きたいことはあると思いますが、先に今日は会長に会える最後の日になります。小春さんにお任せしますがこの部屋を出て真っ直ぐ進めば突き当たりに居られますので。後、こちらと。」

差し出された遺書にゆっくりと手を伸ばす

私はお爺ちゃんの記憶どころか
両親の記憶すら一つも覚えてない

今日まで事故で亡くなってしまったと思っていたから
仕方がなかったんだと思って生きてきたし
どうしようもないことを嘆く気にはなれなかった。

でも違った

お母さんとお父さんは死ななくても良かったんだ
そんな目に遭わなければ
私は両親と一緒に生きていたかもしれないし
お爺ちゃんに寂しい想いをさせないで済んだかもしれない

「あの、椎名さん」
「はい?」

「お爺ちゃんは父の?」
「はい。会長の息子さんが小春さんのお父様です」

お爺ちゃんは自分の息子を亡くしたんだ
自分も乗るはずだった車で。
どんな気持ちで生きてくれていたんだろう

「小春さんのお食事のご用意をしてきますので、後でお迎えにあがります」

さっきまでの私ならご飯!!と
目を輝かせていたはずだけど
一人になったお爺ちゃんの部屋で
遺書を片手に中庭を眺めながら
何とも言えない気持ちが渦巻くのを
深呼吸と共に落ち着かせる

そもそも犯人はまだ捕まってない
きっとお爺ちゃんだって必死に探したに違いない
それでも見つからなかったってことは
相手はそれなりにこの組に関わりがある人 として
考えるのが筋だと思う。


はぁ、ダメだ。
あたりまえだけど、知らないことが山積みすぎて
今私がここで考えた所で何も分からない。

「… 行こうかな」


お爺ちゃんだと分かっても少し怖かった
けどこのまま顔も見ないまま
天国に逝ってしまうんだと思うと
どうしようもなく、やるせなくて虚しくて。

部屋を出て、ひんやりと冷たい廊下を歩きながら
私の中で芽生えた思いを胸に
お爺ちゃんが眠る部屋へと向かった。
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