冷酷な狼皇帝の契約花嫁 ~「お前は家族じゃない」と捨てられた令嬢が、獣人国で愛されて幸せになるまで~
第一章 嫌われし「金色を帯びた」令嬢は、捨てられる
サラ・バルクスは貴族である。
エルバラン王国の辺境伯である名門バルクス家の四番目の娘、末子として生まれた。そして、今年で十八歳を迎えるに相応しい大人の面影を強くしていた。
コルセットを締めずとも、リボンを巻くだけで魅力的に仕上がる細い身体。女性たちがうらやむようなほっそりとした腕。
背中で大きく流れているプラチナブロンドの髪は金色にきらめき、日差しを知らないような白い肌によく映えた。
その瞳は、見事な“金”である。
この国では他にない髪と瞳の色は、どんな質素なドレスでも美しく華やかなものに見せた。さぞ社交界で目を引くだろうと思われる――なんてことは、残念ながらなかった。
『なんと、おぞましい』
人々は、サラのプラチナブロンドの髪を見ればざわめき、黄金を宿した瞳と目が合うと憎しみとも思える非情な眼差しを向けた。
『人にはない色だわ』
『そんな子がアイボリーヌ様から生まれるなんて……』
『さぞショックを受けて、おつらくていらっしゃるだろう』
つらいのはサラの方だ。同情もされずひたすらのけ者扱いにされ、この国に彼女の人権はほぼないに等しい。
エルバラン王国では“金”を宿す髪と瞳は、忌み嫌われた。
そのため、サラは隠すようにして屋敷に閉じ込められた。
社交界デビューは貴族の義務だ。忠誠を示すために国王へ顔を出さなければならず、もちろんサラも従ったが、それは最悪だった。
サラは多くの貴族の奇異の目に晒され、心臓が痛くなるような囁き声に包まれた。そして威厳を保っていたはずの国王が、あからさまにおぞましいものを見たような態度をとるのを見て、はっきりと自分の立場を認識させられた。
同時に、思春期の彼女は『自分はとても醜いのだ』と思い込んだ。
大人になる前に、少女が社交界入りを果たすはずの晴れ舞台。
サラはその日絶望した。唯一の救いはこっそりと守り続けてくれていた、一部の使用人たちの存在だった。
『実の子ですのに、あんまりな扱いです』
見ていられなくて手を差し伸べたことがきっかけで、彼らはサラに情を覚えたみたいだ。
サラに関わったからって何も不幸なことなど起きなかったら、ただの言い伝えだと思ったかもしれない。
だから社交界デビュー以降、サラは“それ”を知られることがもっと恐ろしくなった。
(隠さなくちゃ……)
この国でとても嫌われる対象として【魔女】は語り継がれている。
ある日、突然外からやって来たその魔女は、金色の髪をもっていたそうだ。
そして彼女は恐ろしい魔法の使い手だった。この国はたった一人の魔女を相手に、長き戦いを強いられることになる。
王子は蛙に変えられ、王家は血を絶えさせられそうになった。
嫁いでくるはずだった姫は魔女にさらわれ、魔法の塔に閉じ込められた。
魔女は国内を好き放題に混乱へと陥れた。高笑いしてあちらこちらに現れては、先々をどんどん不幸に落としていった――。
それは誰もが知っているとても長いお話だ。
一冊の本に描かれて語り継がれていた。そうして金色の髪や瞳には、魔力が宿っていると言われているのだ。
母は赤茶色の髪をしていたが、サラは姉妹の中で唯一明るいプラチナブロンドで生まれた。髪の“金”に加え、さらに色味の強いはっきりとした黄金色の瞳のせいで、令嬢ではない扱いをされた。
三人の姉がいるが、意地悪で、傲慢にもサラを顎でこき使った。
母の名誉のために『血のつながりなんてない』という罵倒はさすがになかったものの、その目と態度でそう語っていた。
エルバラン王国の辺境伯である名門バルクス家の四番目の娘、末子として生まれた。そして、今年で十八歳を迎えるに相応しい大人の面影を強くしていた。
コルセットを締めずとも、リボンを巻くだけで魅力的に仕上がる細い身体。女性たちがうらやむようなほっそりとした腕。
背中で大きく流れているプラチナブロンドの髪は金色にきらめき、日差しを知らないような白い肌によく映えた。
その瞳は、見事な“金”である。
この国では他にない髪と瞳の色は、どんな質素なドレスでも美しく華やかなものに見せた。さぞ社交界で目を引くだろうと思われる――なんてことは、残念ながらなかった。
『なんと、おぞましい』
人々は、サラのプラチナブロンドの髪を見ればざわめき、黄金を宿した瞳と目が合うと憎しみとも思える非情な眼差しを向けた。
『人にはない色だわ』
『そんな子がアイボリーヌ様から生まれるなんて……』
『さぞショックを受けて、おつらくていらっしゃるだろう』
つらいのはサラの方だ。同情もされずひたすらのけ者扱いにされ、この国に彼女の人権はほぼないに等しい。
エルバラン王国では“金”を宿す髪と瞳は、忌み嫌われた。
そのため、サラは隠すようにして屋敷に閉じ込められた。
社交界デビューは貴族の義務だ。忠誠を示すために国王へ顔を出さなければならず、もちろんサラも従ったが、それは最悪だった。
サラは多くの貴族の奇異の目に晒され、心臓が痛くなるような囁き声に包まれた。そして威厳を保っていたはずの国王が、あからさまにおぞましいものを見たような態度をとるのを見て、はっきりと自分の立場を認識させられた。
同時に、思春期の彼女は『自分はとても醜いのだ』と思い込んだ。
大人になる前に、少女が社交界入りを果たすはずの晴れ舞台。
サラはその日絶望した。唯一の救いはこっそりと守り続けてくれていた、一部の使用人たちの存在だった。
『実の子ですのに、あんまりな扱いです』
見ていられなくて手を差し伸べたことがきっかけで、彼らはサラに情を覚えたみたいだ。
サラに関わったからって何も不幸なことなど起きなかったら、ただの言い伝えだと思ったかもしれない。
だから社交界デビュー以降、サラは“それ”を知られることがもっと恐ろしくなった。
(隠さなくちゃ……)
この国でとても嫌われる対象として【魔女】は語り継がれている。
ある日、突然外からやって来たその魔女は、金色の髪をもっていたそうだ。
そして彼女は恐ろしい魔法の使い手だった。この国はたった一人の魔女を相手に、長き戦いを強いられることになる。
王子は蛙に変えられ、王家は血を絶えさせられそうになった。
嫁いでくるはずだった姫は魔女にさらわれ、魔法の塔に閉じ込められた。
魔女は国内を好き放題に混乱へと陥れた。高笑いしてあちらこちらに現れては、先々をどんどん不幸に落としていった――。
それは誰もが知っているとても長いお話だ。
一冊の本に描かれて語り継がれていた。そうして金色の髪や瞳には、魔力が宿っていると言われているのだ。
母は赤茶色の髪をしていたが、サラは姉妹の中で唯一明るいプラチナブロンドで生まれた。髪の“金”に加え、さらに色味の強いはっきりとした黄金色の瞳のせいで、令嬢ではない扱いをされた。
三人の姉がいるが、意地悪で、傲慢にもサラを顎でこき使った。
母の名誉のために『血のつながりなんてない』という罵倒はさすがになかったものの、その目と態度でそう語っていた。