双子王子の継母になりまして嫌われ悪女ですが、そんなことより義息子たちが可愛すぎて困ります~
プロローグ・結婚式
式の直前。
私は純白のウェディングドレス姿で、同じく純白の正装に身を包んだルイゾン様と祈祷室の扉の前で腕を組んで立っていた。
『黒髪令嬢』と罵られていた私が本当に結婚するのだ。
自分の黒髪がベールに覆われているのを見て、一層気持ちが張り詰める。
――今さらなによ。気合いよ、気合い!
口に出さずに決意を固め直していると、隣のルイゾン様がそっと私に囁いた。
「ジュリア。そのドレス、よく似合っている」
「え、あっ、ありがとうございます」
顔を上げると、ルイゾン様の太陽のような金髪が眩しくて、目を細める。
晴れ渡った空のような青い瞳は甘い眼差しだが、意志の強そうな眉は男らしく、キリッとした口元に至っては、直視してはいけないと思わせるくらい大人の色香が漂っていた。けれど、体つきはがっしりとしていて、全体の印象はとても精悍だ。
――本当に、どうして私がこの方と?
この結婚が決まってから幾度となく繰り返した言葉を、もう一度胸の内で繰り返す。
「ジュリア?」
「あ、いえ、失礼しました」
動く芸術品のようなルイゾン様に見惚れて、つい返事が遅くなった。ルイゾン様は気を悪くした様子もなく続ける。
「こんなところだが、よろしく頼むよ」
「こんなところ、とは?」
「年頃の女性なら、もっと大人数が招待できる華やかな場所で式を挙げたかったんじゃないかと思ってね。私の事情に合わせてもらうとここしかないから、仕方ないのだが」
宮殿の中の小さな祈祷室で、大神官と少数の立会人のもとで誓いを宣べる。それがこの結婚式のすべてだ。ドレスを二度三度と着替えることも、お披露目を兼ねた豪華な会食もない。
二度目の結婚式は地味にというこの国の慣例に従った結果だった。
――私は初婚だけどルイゾン様は再婚だから。
でも、そんなことは元より承知だ。
私はルイゾン様の気遣いをありがたく思いながら答える。
「いえ、そもそも結婚に興味はありませんでしたから、どこでも大丈夫です」
ルイゾン様の形のいい眉が少しだけ上がった。
「そう?」
「はい。むしろもっと参列者を減らしてほしいくらいです」
「なぜ?」
「社交に慣れていませんので、万一、なにかやらかした時のために目撃者は少ない方がいいかと」
「ふっ」
ルイゾン様は、こらえきれないように下を向いて小さく息を吐いた。どうやら、また見当違いのことを言ったらしい。
「……こういう時の適切な言い方がわからなくて……すみません」
素直に謝ると、ルイゾン様はなぜか機嫌のよさそうな顔で、さっきよりさらに距離を詰めて私の耳元で囁いた。
「いや、君はそれでいい。少しずつ学べばいいんだ――王妃としての振る舞いは」
「ありがとうございます」
――そうだ。もう、腹を括るしかないのだ。
「頑張ります」
私は前を向きながら、小声でそう告げた。
「ああ、頼む」
ルイゾン様も前を向く。扉の向こうに人の気配がしたのだ。
もうすぐ、式が始まる。そう思った瞬間。
「お待たせいたしました」
向こう側から扉が開かれ、私たちの名前が高々と告げられた。
「ルイゾン・レジス・サヴァティエ国王陛下ならびに、ジュリア・レーヴ・ロンサール伯爵令嬢の入場です」
私はルイゾン様と一緒に、一歩を踏み出す。
数少ない参列者から突き刺さるような視線を向けられるのを感じた。
「噂通り真っ黒な髪だ……」
「まあ、瞳も黒いわ」
「陛下はどうしてあんな令嬢を……」
そんな声が漏れ聞こえたが、批判されるのは承知の上だ。跳ね除けるように前だけを見て歩く。
国王陛下の再婚相手として、相応しい令嬢はたくさんいただろう。
でも、今ここにいるのは私だ。
大神官様が厳かな声で私たちに尋ねる。
「ルイゾン・レジス・サヴァティエは、ジュリア・レーヴ・ロンサールを妻とすることを誓いますか?」
「誓います」
「ジュリア・レーヴ・ロンサールは、ルイゾン・レジス・サヴァティエを夫とすることを誓いますか?」
「誓います」
ルイゾン様が抜擢して、私が承諾したのだ。
――双子王子殿下たちの継母になることを。
私は純白のウェディングドレス姿で、同じく純白の正装に身を包んだルイゾン様と祈祷室の扉の前で腕を組んで立っていた。
『黒髪令嬢』と罵られていた私が本当に結婚するのだ。
自分の黒髪がベールに覆われているのを見て、一層気持ちが張り詰める。
――今さらなによ。気合いよ、気合い!
口に出さずに決意を固め直していると、隣のルイゾン様がそっと私に囁いた。
「ジュリア。そのドレス、よく似合っている」
「え、あっ、ありがとうございます」
顔を上げると、ルイゾン様の太陽のような金髪が眩しくて、目を細める。
晴れ渡った空のような青い瞳は甘い眼差しだが、意志の強そうな眉は男らしく、キリッとした口元に至っては、直視してはいけないと思わせるくらい大人の色香が漂っていた。けれど、体つきはがっしりとしていて、全体の印象はとても精悍だ。
――本当に、どうして私がこの方と?
この結婚が決まってから幾度となく繰り返した言葉を、もう一度胸の内で繰り返す。
「ジュリア?」
「あ、いえ、失礼しました」
動く芸術品のようなルイゾン様に見惚れて、つい返事が遅くなった。ルイゾン様は気を悪くした様子もなく続ける。
「こんなところだが、よろしく頼むよ」
「こんなところ、とは?」
「年頃の女性なら、もっと大人数が招待できる華やかな場所で式を挙げたかったんじゃないかと思ってね。私の事情に合わせてもらうとここしかないから、仕方ないのだが」
宮殿の中の小さな祈祷室で、大神官と少数の立会人のもとで誓いを宣べる。それがこの結婚式のすべてだ。ドレスを二度三度と着替えることも、お披露目を兼ねた豪華な会食もない。
二度目の結婚式は地味にというこの国の慣例に従った結果だった。
――私は初婚だけどルイゾン様は再婚だから。
でも、そんなことは元より承知だ。
私はルイゾン様の気遣いをありがたく思いながら答える。
「いえ、そもそも結婚に興味はありませんでしたから、どこでも大丈夫です」
ルイゾン様の形のいい眉が少しだけ上がった。
「そう?」
「はい。むしろもっと参列者を減らしてほしいくらいです」
「なぜ?」
「社交に慣れていませんので、万一、なにかやらかした時のために目撃者は少ない方がいいかと」
「ふっ」
ルイゾン様は、こらえきれないように下を向いて小さく息を吐いた。どうやら、また見当違いのことを言ったらしい。
「……こういう時の適切な言い方がわからなくて……すみません」
素直に謝ると、ルイゾン様はなぜか機嫌のよさそうな顔で、さっきよりさらに距離を詰めて私の耳元で囁いた。
「いや、君はそれでいい。少しずつ学べばいいんだ――王妃としての振る舞いは」
「ありがとうございます」
――そうだ。もう、腹を括るしかないのだ。
「頑張ります」
私は前を向きながら、小声でそう告げた。
「ああ、頼む」
ルイゾン様も前を向く。扉の向こうに人の気配がしたのだ。
もうすぐ、式が始まる。そう思った瞬間。
「お待たせいたしました」
向こう側から扉が開かれ、私たちの名前が高々と告げられた。
「ルイゾン・レジス・サヴァティエ国王陛下ならびに、ジュリア・レーヴ・ロンサール伯爵令嬢の入場です」
私はルイゾン様と一緒に、一歩を踏み出す。
数少ない参列者から突き刺さるような視線を向けられるのを感じた。
「噂通り真っ黒な髪だ……」
「まあ、瞳も黒いわ」
「陛下はどうしてあんな令嬢を……」
そんな声が漏れ聞こえたが、批判されるのは承知の上だ。跳ね除けるように前だけを見て歩く。
国王陛下の再婚相手として、相応しい令嬢はたくさんいただろう。
でも、今ここにいるのは私だ。
大神官様が厳かな声で私たちに尋ねる。
「ルイゾン・レジス・サヴァティエは、ジュリア・レーヴ・ロンサールを妻とすることを誓いますか?」
「誓います」
「ジュリア・レーヴ・ロンサールは、ルイゾン・レジス・サヴァティエを夫とすることを誓いますか?」
「誓います」
ルイゾン様が抜擢して、私が承諾したのだ。
――双子王子殿下たちの継母になることを。
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