双子王子の継母になりまして嫌われ悪女ですが、そんなことより義息子たちが可愛すぎて困ります~
ドニの言葉に私は頷く。
「論文は仕上げてあるから、あとは送るだけよ」
王立植物園は、珍しい他国の植物や王国固有の植物を調べたり保護したりする場所だ。王国一の規模のため、仕事は大変だがやりがいはある。植物への愛情と知識を試すために、論文の提出が条件だった。
私はそれを、魔草とペルルに関する今までの研究をまとめたもので審査してもらうつもりだ。
「ジュリア様ならきっと合格なさいますよ」
「だといいけど……」
グラシア先生にいい報告ができればいいなと考えていた私は、正直に言うと、ほんの少しだけ期待を抱いていた。
転送してもらった募集要項には、なんと髪色にもこだわらないと明記されていたのだ。
赤系でも茶系でも構わないという意味かもしれないが、私はそこに一(いち)縷(る)の望みをかけた。
もし、植物園で働けたら北の修道院に行かなくて済む。
――だから、お願い。
私は祈りを込めて魔草を植え替えた。
「よし、できた」
「いい魔草ですね」
「かわいいわ」
「おや」
「あら」
植え替えた魔草は、私の期待に応えるように、いきなりぽんと花を咲かせた。つぼみと同じ色味の花弁が、その内側を覗かせる。
「幸先いいですな」
「ドニったら」
私は肩を竦めたが、本当は同じことを考えていた。
そして数週間後。
「ジュリア様、届いておりましたぞ!」
温室でドニから植物園の手紙を受け取った私は、祈るような気持ちで封を開けた。「なるほど……ドニ」
事務的な文章を何度も読んだ私は、固唾を呑んで見守っているドニに告げる。
「……不合格ですって」
そううまくはいかなかった。
「そんな!」
ドニが私以上に悲しそうに目を見開いたので、慌てて明るい声を出す。
「仕方ないわね! 切り替えていきましょう」
「ジュリア様……」
「ドニ、そんな顔しないで! あ、ちょっと外の畑を見てくるわ」
「承知しました……」
ドニを心配させたくなくて、私はそう言って温室から出た。
でも、ひとりになるとダメだった。不安が一気に押し寄せる。
「これからどうしたらいいの……」
誰もいない裏庭の噴水を覗き込んだ。
水面に映る私は、真っ黒な髪をしている。どう足掻いても、それは変えられない。
――こうなったら、家出しかないかしら。
そう考えたものの、すぐに思い止まった。私を雇ってくれるところなんて、きっとない。
「……黒髪だから」
髪色を変える薬草も、私には効果がなかった。お義母様に昔使われたのだが、黒が強すぎて染まらないのだ。
なす術もなく、ぼんやりと水面に映る自分を見つめていると。
「お嬢様! ここにいましたか!」
メイドのサニタが息を切らして現れた。ひとつにまとめた茶色の巻毛が揺れている。
私より三歳年下のサニタは、初歩の土魔法の使い手だった。この家でかろうじて私の世話を焼いてくれるのはサニタだけだ。
「どうしたの? もしかして繰り上げ合格?」
とても慌てている様子につい、未練がましいことを口走ってしまう。
「いいえ! でも、大変です!」
違うのか、と肩を落とす私に、サニタは無理やり目を合わせた。
「よく聞いてください。王宮からの遣いがお嬢様にお会いしたいと来ているんです」
「どうして?」
――王宮? 今まで関わったこともないのに? なぜ?
「お嬢様、落ち着いてよく聞いてくださいね」
どう見ても落ち着いていないのはサニタの方だったが、私はゆっくりと頷いた。
「国王陛下の再婚相手に、ジュリアお嬢様が選ばれたんです」「は?」
「ですから、国王陛下の再婚相手に、お嬢様が選ばれたんです」
「国王陛下の、再婚相手?」
「そうです! お嬢様、おめでとうございます!」
「え、ちょっと待って待って!」
――そんなものに応募した記憶はないんですけど?
「論文は仕上げてあるから、あとは送るだけよ」
王立植物園は、珍しい他国の植物や王国固有の植物を調べたり保護したりする場所だ。王国一の規模のため、仕事は大変だがやりがいはある。植物への愛情と知識を試すために、論文の提出が条件だった。
私はそれを、魔草とペルルに関する今までの研究をまとめたもので審査してもらうつもりだ。
「ジュリア様ならきっと合格なさいますよ」
「だといいけど……」
グラシア先生にいい報告ができればいいなと考えていた私は、正直に言うと、ほんの少しだけ期待を抱いていた。
転送してもらった募集要項には、なんと髪色にもこだわらないと明記されていたのだ。
赤系でも茶系でも構わないという意味かもしれないが、私はそこに一(いち)縷(る)の望みをかけた。
もし、植物園で働けたら北の修道院に行かなくて済む。
――だから、お願い。
私は祈りを込めて魔草を植え替えた。
「よし、できた」
「いい魔草ですね」
「かわいいわ」
「おや」
「あら」
植え替えた魔草は、私の期待に応えるように、いきなりぽんと花を咲かせた。つぼみと同じ色味の花弁が、その内側を覗かせる。
「幸先いいですな」
「ドニったら」
私は肩を竦めたが、本当は同じことを考えていた。
そして数週間後。
「ジュリア様、届いておりましたぞ!」
温室でドニから植物園の手紙を受け取った私は、祈るような気持ちで封を開けた。「なるほど……ドニ」
事務的な文章を何度も読んだ私は、固唾を呑んで見守っているドニに告げる。
「……不合格ですって」
そううまくはいかなかった。
「そんな!」
ドニが私以上に悲しそうに目を見開いたので、慌てて明るい声を出す。
「仕方ないわね! 切り替えていきましょう」
「ジュリア様……」
「ドニ、そんな顔しないで! あ、ちょっと外の畑を見てくるわ」
「承知しました……」
ドニを心配させたくなくて、私はそう言って温室から出た。
でも、ひとりになるとダメだった。不安が一気に押し寄せる。
「これからどうしたらいいの……」
誰もいない裏庭の噴水を覗き込んだ。
水面に映る私は、真っ黒な髪をしている。どう足掻いても、それは変えられない。
――こうなったら、家出しかないかしら。
そう考えたものの、すぐに思い止まった。私を雇ってくれるところなんて、きっとない。
「……黒髪だから」
髪色を変える薬草も、私には効果がなかった。お義母様に昔使われたのだが、黒が強すぎて染まらないのだ。
なす術もなく、ぼんやりと水面に映る自分を見つめていると。
「お嬢様! ここにいましたか!」
メイドのサニタが息を切らして現れた。ひとつにまとめた茶色の巻毛が揺れている。
私より三歳年下のサニタは、初歩の土魔法の使い手だった。この家でかろうじて私の世話を焼いてくれるのはサニタだけだ。
「どうしたの? もしかして繰り上げ合格?」
とても慌てている様子につい、未練がましいことを口走ってしまう。
「いいえ! でも、大変です!」
違うのか、と肩を落とす私に、サニタは無理やり目を合わせた。
「よく聞いてください。王宮からの遣いがお嬢様にお会いしたいと来ているんです」
「どうして?」
――王宮? 今まで関わったこともないのに? なぜ?
「お嬢様、落ち着いてよく聞いてくださいね」
どう見ても落ち着いていないのはサニタの方だったが、私はゆっくりと頷いた。
「国王陛下の再婚相手に、ジュリアお嬢様が選ばれたんです」「は?」
「ですから、国王陛下の再婚相手に、お嬢様が選ばれたんです」
「国王陛下の、再婚相手?」
「そうです! お嬢様、おめでとうございます!」
「え、ちょっと待って待って!」
――そんなものに応募した記憶はないんですけど?