財閥御曹司は左遷された彼女を秘めた愛で取り戻す

 確かに、彼女は注意して書類を見るとかそういうのは、きっと言っても無理かもしれない。

 こういうのって個人の資質ってあるんだよね。何人か教えてきたからわかる。その代わり、彼女のどんなときも前向きな明るさは得がたい。

「あのさ、難波さん。まあ、部長のことは今更聞かない方がいいかもよ。部長の庶務だったし、下手なこと言うと巻き込まれるかもしれない。事情聴取なかったのは難波さんを信じてのことなんだよ、きっと」

 彼女が何も気づいていないのは、支社長はわかっていたから無罪放免なのだ。

 でも私は少し脅かしてあげた。彼女は青くなって固まった。今更関係者なのに詮索すると、無駄に巻き込まれかねない。

 なにしろ彼女は余計なこと知りたがるし、話したがる。このくらい言っておけば何も探らないだろう。

「ええ!?そうなんですか……わかりました。知らんふりします」

「そうだよ、聞かれても何も知らないって言っておいた方がいいよ」

 佳奈美さんも言う。

「そうだな。ここだけのはなし、部長のことは俺も嫌いだった。いなくなってよかったし、関わりたくないから知らんふりが一番だ」
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