財閥御曹司は左遷された彼女を秘めた愛で取り戻す

最初の一歩

 翌火曜日。

 恐る恐る本部へ出社した。まずは秘書室へ顔を出す。

「お、おはようございます……」

 震える声で挨拶をする。みんなが一斉にこっちを見た。怖いよ。すると、真紀が走ってきて私に抱きついた。

「おはよう、菜々。お帰りー。待ってたよー!」

 私は真紀の背中を叩いて、うなずいた。

「真紀、ありがとう。皆さん、お久しぶりです。おはようございます」

「香月さん、戻ってきたんですね。お帰りなさい」

「あ、橘さん、お久しぶりです」

「あの、本当ですか?崇さんの秘書になるって……」

 小声で私に聞いてくる。

「それは、あの……」

 後ろから聞き慣れた声がした。

「香月」

 振り向くと、大分痩せた辰巳さんがいた。

「あ、辰巳さん。おはようございます。お久しぶりです」

「ちょっと……一緒に来い」

 いつもより、三十分前に出社した。秘書室は基本朝早い人が多い。会いたくない人はまだ来ていない。

 それにしても、相変わらずの緊張感。ああ、悲しい。戻りたくなかった。

 支社が恋しい。あの感じがよかったのに……。
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