財閥御曹司は左遷された彼女を秘めた愛で取り戻す
近づく距離
とうとう一番会いたくなかった人に捕まった。
「あら、お久しぶりね、香月さん。ご奉公の年季が明けて戻ってきたの?随分とずうずうしいのね。まさか、辰巳さんを籠絡してその席を奪うなんて、私には絶対出来ないわ」
「黒沢さんはお変わりなくお元気そうで何よりです。崇さんに頼まれて渋々戻ってきたんです。ご心配には及びません。崇さんが気に入らなければ私はまた支社戻りの予定です」
それを聞いて嬉しそうに高笑いしている。本当に変わらないってすごい。さすがの崇さんも彼女を選ぶことはしないと信じたい。
「あらそうなの。じゃあ、あっという間かしらね。何しろ、半年も本部にいなかったのだし、忘れていることも多いんじゃないの?何かあれば代わってあげますからいつでも頼って下さって結構よ」
「……それはありがとうございます」
横から声がした。瀬川常務、いや、今は専務か。
「黒沢さん。こんな所にいたのか。お客様が来るから、早くお迎えに出て。あれ、君は香月さんじゃない?戻ったっていうのは本当だったのか」
眼鏡をずり揚げて私をじっと見つめる。