財閥御曹司は左遷された彼女を秘めた愛で取り戻す

「すみません、取れました」

「……なんか、いいな……」

「……え?」

 彼はクスッと笑いながら、私の横を通り過ぎて「専務、失礼します。急にすみません」と言いながら部屋へ入っていった。

 崇さんは専務の下で実務をしていたことがあり、親しい上司と部下の関係が未だ続いている。

 いずれ彼の方が上司になるのだろうが、専務に敬意をもって接してくれているのだ。だから、必ず私を通して部屋に入る。

 無断で入ったりしないのだ。そういうところはいつ見ても律儀だ。

 彼を通すと、私はいつも通りコーヒーをドリップしに給湯室へ入った。すると、常務理事の秘書をしている黒沢さんがいた。先ほど私達の様子をここから覗いて見ていたのには気づいていた。

「黒沢さん、瀬川常務は外出ですか?」
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