ホテル ポラリス  彼女と彼とそのカレシ?
「イタタタッ……」

意識を取り戻したとたんに激痛が襲った。
後頭部に手をやると、ソフトボール大のたんこぶができている。体のあちこちにも鈍い痛みがあった。

「大丈夫?」

多恵は不思議そうにあたりに視線を巡らせた。
なぜ、自室のベッドに寝ているのだろう? それも肌襦袢姿で。

「無茶をするんだから」

濡れタオルを額に当て直してくれる手に、多恵は言った。

「なぜ、戻ってきたの?」

「コタ君から電話をもらって。君と連絡が取れないって」

「コタが? なぜ?」

多恵は頬に貼られた湿布に手をやった。口の中が切れたのか違和感があって喋りにくい。

「コタ君は心配だったんだ。昨夜、君の様子がおかしかったから、君が、その……」

「自殺でもすると思った? ……バカね……」

やんちゃなふりをして生意気な口をきくくせに、気が優しくて心配性な航太らしい。
そんな航太をすっかり手懐けて、連絡先まで教えていたなんて、玲丞も存外抜け目がない。

それにしても、玲丞はどうやってあの旅館を突き止めたのだろう。黒川との密会は誰にも知られていないはずなのに。
相変わらずよくわからないひとだ。

多恵はにわかに目を見開いた。

「私、失敗した?」

多恵は自分の言葉に絶望的な顔をした。
人生最大最悪の恥辱に耐えたのは何のためだったのか。あと少しだったのに。
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