ホテル ポラリス  彼女と彼とそのカレシ?
「瑠衣、おばちゃんに抱っこしてもらおうか」

少し遅れて、多恵は気づいたように目を瞬いた。

「おばちゃんって、私?」

「あんたしかいないじゃない。ほら──」

「え? ま、待って」

おろおろする多恵の首根っこに、瑠衣は無邪気に抱きついてくる。
はじめて抱っこした赤ちゃんは、意外に重い。それに温かくて柔らかい。

「かわい……い」

「ユキも子どもを作りなさい。女にはタイムリミットがあるんだから。ご両親も草葉の陰で心配してるわよ」

「そうねぇ」

指を掴む小さな手を見つめながら感慨深く言う多恵に、司は眉を潜めた。

「やぁねぇ、何しんみりしちゃってるのよ。地震でも起きるんじゃないの?」

減らず口は健在だ。それが司独特の励まし方なのだけれど。

やはり居心地が悪いのか、瑠衣がむずがった。
おろおろする多恵を司は意地悪く笑っている。

すぐに調理場から出てきた理玖が、慣れた手つきで子どもを抱き上げるのを見て、多恵は何だか不思議な感じがした。
自信のなさがすっかり消えて、地に足が着いた感がする。これが親になるということなのだろう。
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