ホテル ポラリス  彼女と彼とそのカレシ?
「今日は本人のたっての希望で同席させたけれど、玲はこの案件には一切関わっていない。こいつは危機管理や不祥事対応が専門分野で、三年前からは会長の事件にかかり切りだったんだ。マスコミに散々叩かれたから知ってるでしょう? 官庁の保養施設をめぐる財務省の土地価格決裁文書改ざん疑惑」

ふーんと、多恵は過去のニュースを思い巡らせた。
隣市のことだったから、連日国会で取り上げられていたことはよく覚えている。
あの参考人招致で映っていたのは、倫太郎の父親か。悪党面の割にはクレバーな答弁だと感じたけれど、と言うことは、あれは玲丞の草案だったのかしら。

「私は、薫子のお祖父様に命じられてハネムーンという名の逃避行に出ていて無事だったけど、さすがにうちの親父も参ってた。野党の本丸がセンセイなのは明らかだったし、飛び火は阻止しないとだから、玲も苦心惨憺の日々だったわけよ」

「そうですか」

棒読みの返しに、それでも倫太郎はお構いなしに続ける。

「半年前、ようやく一段落着いたってここに顔を見せた玲が、急に血相変えてさ。ホラ、こいつって、小さい頃から変に物わかりが良くて、喜怒哀楽顔に出さない方でしょう?」

知ったことかと呆れ顔を向けた多恵に、彼はしてやったりと笑いかけた。

「ちょうどあなたのあの笑えるやらせ番組の録画を観ていたところだったから、これは何かあるなと思って様子を探らせたら、ポラリスをリザーブしてたって聞いてね。強引に便乗したというわけ。まぁ、私の方は、敵城視察もしたかったし、アベックの方が怪しまれないと思って」

別の意味で充分に怪しかった。

「つまり、その時点では、玲は岬がターゲットになっていることを知らなかったってこと」

「今さら、どうでもいいことです」

多恵はゆっくりと廻れ右をして、打ちひしがれ立ち尽くす玲丞に向かって言った。

「あなた方はお望みのものを手に入れる。それが現実ですから」

「だから多恵──」

「多恵と呼ぶな!」

玲丞の横やりに出鼻を挫かれた多恵は、怒声のやり場がなくなって、欲求不満を募らせた。
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