ホテル ポラリス  彼女と彼とそのカレシ?
玲丞は気持ちを整えるように大きく息を吸ってゆっくりと吐いた。

「こんな再会になって、君に誤解されても仕方がない。だけど本当に、僕はただ君に逢いたくてポラリスへ行ったんだ。君がいなくなって、司さんはボストンへ戻ったと言うけど、連絡先を頑として教えてくれないし、だから、思い切って会社を訪ねた。そこで君が退職していることを知って、すぐに不動産屋で転居先の住所を入手して、あの屋敷へも行った。だけど、表札が中里になっていたし、何度か訪ねてもいつも留守だった。近隣の人にも尋ねたけれど、かえって不審者と通報されて、警察に追い返されてしまって……」

まあ、そうだろう。いきなり都会もんが訪ねてきても、疑われるだけだ。

「そのあと、胡蝶のママから、君の退職理由を聞いて……。そんなに彼が忘れられなかったのかと、少し、弱気になった。諦めるしかないのかと思っていた。でも、あの日、君の映像を見て、どうしても会って確かめたくて──」

多恵は冷たい目で話を遮った。

「それで? 昔の縁でカンナビを手放すように唆すつもりだった? それとも訴訟を起こされないように懐柔するつもりだった?」

「僕は、君を助けたかったんだよ」

「もう一発殴られたい?」

「倫太郎から、君が開発計画の障害になっている地権者だと聞いて、東京へ取れ戻そうと考えたことは否定しない。会社のやり方は僕が一番知っている。君が傷つけられる前に、何としても救い出したかった。君が中里氏の実の娘であることも、ポラリスがお母さんの遺志だったことも、幸村家とカンナビとの関係も、神尾さんから聞くまではまったく知らなかったんだ」

予告どおりに振りかぶった手は、標的をとらえる直前に玲丞の手に阻止されてしまった。

「大嘘つき!」

「嘘じゃない」

「それじゃ、なぜ神尾さんに会ってるの!」

「ポラリスへ行った翌日に、父から神尾さんが僕に会いたがっていると呼び出された。実はポラリスに予約を断られて、不本意だったけど父の名を出して彼に手を回してもらったんだ。神尾さんは君のことを案じて、僕たちが何かよからぬ策を講じているんじゃないかと心配になったらしい。彼が中里さんの屋敷の購入を伯母に懇請したことも、そのときに聞いた」

「それならなぜすぐに言わなかったのよ」
< 133 / 154 >

この作品をシェア

pagetop