ホテル ポラリス  彼女と彼とそのカレシ?
昂奮して手首を掴む手に力が増していることを、玲丞は自覚していないのか。多恵の手の甲が血の気を失ってみるみる白くなった。

「放してよ」

多恵は大物がかかった釣り竿でも引っ張るように腕を引き戻した。
こちらが抵抗をやめれば、相手の抑制も弛まるとわかっているのに、ますますムキになるから、よけいに輪が締まってしまう。

「痛いってば!」

「玲~、女に乱暴はやめろよ~」

「黙ってろよ!」

玲丞が持って行きようのない怒りを余所へ向けたとたん、多恵を拘束していた握力がふと弱まった。

多恵はここぞと逃れると、被害者意識充分に恨めしそうに赤くなった痕をさすった。

案の定、玲丞は申し訳なさそうに心配している。
そして呻くように、

「何度も言おうとしたんだ。でも、君は聞こうとしてくれなかった」

「彼のことは尋ねたけれど答えてくれなかったわ」

「言えば君と敵同士になる」

だとしても、多恵はやはり本人の口から真実を聞きたかった。
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