ホテル ポラリス  彼女と彼とそのカレシ?

4 『多恵は、来ないし、僕も、行かない』

「こんなところで何してんのよ!」

すわ一大事、ホテルレストランに緊張が走った。
カクテルドレスの美女がカツカツとピンヒールを響かせ一直線にテーブルへ向かったかと思ったら、カップル客に突っかかり始めたのだ。

スーツの男は動じることもなく女へ目を向けている。
その対面で、ぶりぶりワンピースのお嬢様は口元を押さえて上品に驚いたけれど、目は敵愾心を隠しきれていない。
浮気現場を押さえられたのかと、就任したてのメートルはこの場を収める手段に首鼠両端した。

「今夜はフェルカドのオープニングレセプションだって言ったでしょう? 下に慶にぃと由紀ちゃん、待たせてるから、早く」

「お知り合いですか?」

か弱い女ぶって上目遣いに尋ねるお嬢様を、黒髪ボブの美女はなめくじに塩をかけるような顔でねめつけると、

「邪魔よ。消えて」

「まぁ、こわぁい」

「なぁにがまぁこわぁいよ。猫なで声でにゃんにゃん男に媚び売ってんじゃないわよ。いくらメイクで誤魔化しても、おブスな性格は見え見えなのよ」

「何ですって?」

「ほ〜ら、それが地声じゃない。どうせあんたも彼のステータス狙いでしょ? 図々しい」

図星をつかれてお嬢様は鶏冠にきた。

「そっちこそ図々しい! あんたみたいなおばさん、彼が相手にすると思ってんの!」

「あのぉ、他のお客様もいらっしゃいますので」

「うっさい!」

メートルを怒鳴りつけるお嬢様、馬脚を現したなと女は鼻で嗤っている。
薄っぺらい自尊心を傷つけられ、ヒステリックな音を立て荒々しく席を立つお嬢様。
美女は小馬鹿にしたように男の声で、

「ご苦労さん、また合コンで会いしましょう」

お嬢様は殺気立った目を向けたけれど、ふと何かに気づいたように目を瞬くと、とたんに顔色を変えて、逃げるように店を出て行った。
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