ホテル ポラリス  彼女と彼とそのカレシ?

5 『姫様の苦しいお気持ちもわかります』

可憐な花々をフラワーベースに飾り、多恵はロイヤルブルーのテーブルクロスに溜め息を零した。

館内の至る所で目にする装花も多恵が活けている。経費削減のために、なるべく花材もオブジェも庭や森から調達しているのだけど、そんなしみったれた努力をして、今さら何になるのだろう?

窓の外を巡る人工のせせらぎが、紗のように陽ざしを返して、フェルカドの天井に水底に似た模様を描いている。

多恵は、ミモザの生垣の間に覗く白いプールサイドへ遠い目をやった。陽が傾きはじめて、今は誰の姿もない。

──限界かな、やっぱり……。

ことの起こりは、一週間前のこと。

社長代行としてポラリスを任されて二年余り、何とか銀行への返済も遣り繰りしてきたけれど、思った以上に世間は巧妙で情け容赦がない。まさか世に訊く〝貸しはがし〞が我が身にも降りかかろうとは、予想だにしていなかった。


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「資産報告書の記載漏れについては、虚偽の報告がなされたとして、期限の利益の喪失事項に抵触したものと判断せざるを得ません。この場合、ご融資の更新を打ち切らせていただく旨は、約定に記載されているとおりです。今月中に全額返済が叶わない場合は、遺憾ながらポラリスさんへのご融資は、債権回収機構へ代位弁済措置をとらせていただくことになります」

「待ってください!」

多恵は思わず腰を浮かした。
このご時世、どこに億単位の金をポンと貸してくれる奇特な人がいるのだ。

第一、ここまで負債が膨らんだのは、貸し手責任もあるはずだ。こちらの景気がよいときには、借りろ借りろと盛りのついた雌猫のようにしつこく迫り、本当に困ったときには臆面もなく掌を返す。他人の褌を利用するだけ利用しておいて、卑劣ではないか。
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