ホテル ポラリス  彼女と彼とそのカレシ?
モデルばりのスレンダー美女は、金髪のボブヘアを跳ね上げキッと振り返った。

「だいたいあんた、飛ばしすぎなのよ! 正気の沙汰じゃないわ! 寿命が三年は縮まったわよ!」

蜜蝋を塗ったような艶やかな唇から吐かれるど迫力のアルト。

「で? どこにモナコのオテル・ド・パリにも引けを取らないリゾートホテルがあるって? セレブ御用達のおとなの隠れ宿って、誇大広告じゃないの? JAROに訴えてやろうかしら」

女は傲然と、片手を腰に当てもう一方で小千谷縮の扇子をパッサパサ扇ぎ、不機嫌そうに辺りを観望している。

男は女の不興などどこ吹く風。
優しい目と整った鼻筋、レモンイエローのシャツがよく似合う涼やかな顔立ちで、フリル&ボウのゴージャスブラウスで清風を立ち塞いでいる女との組み合わせはしっくりこない。

黙っていれば美男美女のカップルなのに。
女優とマネージャー? もしくは売れない詩人と資産家のパトロン?

「お荷物は他にございませんか?」

「いえ、ありがとうございます」

「駐車場は地下になります。よろしければこちらでお預かりいたしましょうか?」

「お願いします」

「畏まりました。キーはフロントに届けさせていただきます」

まだまだいちゃもんを言いたげに振り返った女が、大和を見て興味深く驚いた目をした。

「Are you all right? The price of the repair of this car is high.(大丈夫? 傷でもつけたら洒落にならないわよ、この車)」

「?」

「Est-ce que tu es tout redresse? Le prix de la réparation de cette voiture est haut.」

「あのぉ……」

「なぁ〜んだ、君ってなんちゃって外国人? 英語も仏語もできないなんて、使えないわねぇ」
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