ホテル ポラリス  彼女と彼とそのカレシ?
「そういや、夏目君、君、結婚するんだって?」

「はぁ、まあ……」

夏目がちらりと多恵を見た。
何でここで気を使うかなと、多恵は気づかぬふりをした。

「ならば人生の先輩から一つアドバイスを進ぜよう。結婚したらまず初めに嫁にガツンといってやれ。可愛いからと家事の分担なんぞ呑み込んだ日にゃ、女はすぐにつけあがって、じき手に負えなくなる。そうして、ボクら虐げられし者たちの会員がまた一名増えるというわけだ」

遊び人のくせに恐妻家で有名なセンセイだった。

「ありがとうございます。胆に銘じます」

愛華が口元まで運んできたフルーツに大口を開ける辰見に、多恵は問われる前に答えを用意した。

「それで、ユキちゃんは?」

そら来た。この質問は聞き飽きた。何度問われようと答えは同じなのに、みなよく飽きないものだ。

「残念ながらご縁がありません」

「仕事熱心なのもいいが、女も長いこと社会に出ていると、強情で変に小賢しくなっていかんよ。帰国子女のキミにはわからんと思うが、男女共同参画などと声高に叫くのは、日本ではしょせん、自己顕示欲が強いのに男からはまぁったく相手にされてないという少数派の女でね。やはり子どもを産み育てることが、女の幸せだとボクぁは思うなぁ。ユキちゃんももういい歳なんだから、手遅れにならんうちに、将来のことを真剣に考えなさい」

SNSに投稿でもされたら炎上必至の暴言だけれど、いつになくセンセイが真顔なものだから、案外親身に心配してくれてるのかもしれないと考えを改めた矢先、

「愛華ちゃんには、ボクが女の幸せを教えてあげるからね」

「センセイ、奥様いらっしゃるじゃないですかぁ」

──アホくさ。

もったいぶってもっともらしいことを宣うけれど、センセイは軽い。
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