ホテル ポラリス  彼女と彼とそのカレシ?
藤崎はぽつりと、

「今夜は無口なんですね」

何を言い出すのかと、多恵は片眉を上げて睨んだ。

「やはり、昨夜のことを気にしているんですか?」

いきなり核心に触れられて、多恵はたじろいだ。
しかし、動揺を悟られては相手につけいる隙を与えてしまう。多恵は努めてさりげなく、見識張って言った。

「そのことでしたら、事故だと思って忘れてください。私もそう思っていますから」

「事故と言えば事故ですが……」

「ええ、事故です、事故。酔っ払って止まってる車にひかれたようなものです」

「え?」

藤崎は首を捻って、それから思い及んだように声を上げて笑った。

「な、何ですか?」

気でも触れたのか、気味悪い。

「そちらの事故なら起こりませんでした」

「え?」

「あなたは、事故を起こす前に熟睡されてしまいました。お送りするにも住所を知らないし、ザナデューに電話をしたのですがすでに帰られたようで、やむなく僕のマンションにお連れしたんです」

「で、でも……」

「ああ……それは……」

藤崎は言いにくそうに目を泳がせた。

「おそらく、ご自宅と勘違いされたのでしょう。暑いと仰って……」

脳天にトンカチ級の衝撃を喰らって、スッと気が遠くなった。

「大丈夫ですか?」

「す、すみません。ちょっと……」

そうだった。男がネクタイと靴下に縛られているように、女はブラジャーとストッキングを脱ぎ去って、窮屈な日常から開放される。
だからって、目の前に男がいたのに? いや、泥酔状態の多恵には関係ないか。

藤崎も、初対面の女に自分の部屋でいきなりストリップを始められ、さぞ面食らったことだろう。
それを勘違いして相手を責めるなんぞ、甚だ持って迷惑千万な女だ。
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