ホテル ポラリス 彼女と彼とそのカレシ?
2 『ゼネラルマネージャの幸村多恵さんは?』
「わおぅ!」
静かなロビーフロアに欧米的な感嘆符のついた声があがった。
モデル風の女が、黒いサングラスを頭の上に載せながら、正面奥の硝子越しに広がる蒼海に見惚れている。
──そう、このパノラマこそが、ホテル・ポラリスの真骨頂なのですよ。
桜井菜々緒は得意げに微笑んだ。
前庭の地中海式庭園も確かに素晴らしい。美しい花々で彩られ仄かなアロマ漂う大理石のロビーホールは、シンプルながらも三つ星ホテルにも引けを取らぬ優雅さだ。
けれどこのエーゲ海の絵はがきのような絶景を前にしては、やはり存在感を失ってしまう。
水平線まで広がる大海原。
男性ならその鮮麗な碧に果てないロマンを感じるだろうし、女性なら哀しいほど深いブルーに切ない恋を想うかもしれない。
どうぞごゆっくりご堪能くださいと、夜会巻の襟足に手をやった目の先で、カツンと渇いたヒールの音がした。
──え? もう?
女性にしてはずいぶん淡泊だ。初めてのゲストならなおさらのこと、みなさん、窓近くまで寄ったり写真に納めたりされるのに。
「ようこそお越しくださいました。ご宿泊でしょうか?」
菜々緒は動揺を淑やかな笑顔で拭った。
面長で目力が強く、目尻も口元もスッキリ上がった、上品だけどややもするとキツイ印象を、鼻にかかった美声が帳消しにしてくれる。
「ええ──」
女は答えながら、焦れったそうに尖った顎先を上げて振り返った。
つられて視線を向けると、車寄の先に男の後ろ姿があった。
静かなロビーフロアに欧米的な感嘆符のついた声があがった。
モデル風の女が、黒いサングラスを頭の上に載せながら、正面奥の硝子越しに広がる蒼海に見惚れている。
──そう、このパノラマこそが、ホテル・ポラリスの真骨頂なのですよ。
桜井菜々緒は得意げに微笑んだ。
前庭の地中海式庭園も確かに素晴らしい。美しい花々で彩られ仄かなアロマ漂う大理石のロビーホールは、シンプルながらも三つ星ホテルにも引けを取らぬ優雅さだ。
けれどこのエーゲ海の絵はがきのような絶景を前にしては、やはり存在感を失ってしまう。
水平線まで広がる大海原。
男性ならその鮮麗な碧に果てないロマンを感じるだろうし、女性なら哀しいほど深いブルーに切ない恋を想うかもしれない。
どうぞごゆっくりご堪能くださいと、夜会巻の襟足に手をやった目の先で、カツンと渇いたヒールの音がした。
──え? もう?
女性にしてはずいぶん淡泊だ。初めてのゲストならなおさらのこと、みなさん、窓近くまで寄ったり写真に納めたりされるのに。
「ようこそお越しくださいました。ご宿泊でしょうか?」
菜々緒は動揺を淑やかな笑顔で拭った。
面長で目力が強く、目尻も口元もスッキリ上がった、上品だけどややもするとキツイ印象を、鼻にかかった美声が帳消しにしてくれる。
「ええ──」
女は答えながら、焦れったそうに尖った顎先を上げて振り返った。
つられて視線を向けると、車寄の先に男の後ろ姿があった。