ホテル ポラリス  彼女と彼とそのカレシ?
「とにかく、気取ってないで、彼ともっと知り合いなさい」

「知り合ったら気を遣うじゃない。仕事で神経すり減らしているのに、プライベートまで誰かの機嫌をうかがっていたらよけい疲れる。そんな余裕があるのなら、まだまだスキルアップに使いたいし」

「過去の反省なら、方向が間違ってるんじゃないかしら?」

「司」

多恵に睨まれ、司は口元に手をやって、わざと上品ぶった高笑いをしたあと、急に真顔になった。

「私はいい傾向だと思う。日本に帰ってきてからのユキったら、何と戦ってるのか知らないけど、いつも眉間に皺寄せて肩怒らせて、殺気立って怖いくらいだった。それがこの頃は質の悪い呑み方もしなくなったし、やわらかくなったわ。好きなひとのお陰ね」

「好きなひとねぇ」

「好きなんでしょう?」

「どうだろう? カテゴリー的にはLikeに入るんだと思うけど?」

「ほんっと素直じゃないんだから。そうやって毎晩ソワソワと彼を待っているくせに。だからプライドばかり高いお嬢様育ちは扱いにくいって言われるのよ。意地を張る分、幸せは逃げていくって、教わらなかった?」

減らず口同士の舌戦は、決まって司に軍配が上がる。今夜も敗者は舌打ちして、一気に罰杯を煽った。

「理玖、お代わり!」

司は、多恵が定期的に活け替えるオバールテーブルの花へ向けて、セーラムの煙を長く吐いた。

「ハンネマニア」

「恋の始まり?」

条件反射で花言葉を答え、多恵はアッと目を丸くした。多恵が生け替えた黄色い花が、背後でしたり顔に見つめていた。

「あんたたち、お似合いよ。いい加減、年貢の納め時でしょう?」

「からだのフィーリングが合うだけじゃないの? 恋愛ももう面倒くさくって。打算抜きに純粋に恋愛できるのなんて、二十歳までよ」

「男を二人しか知らないあんたが、よく言うわ」

ぐうの音も出ぬ多恵に、司は鬼の首を取ったかのようにからからと笑った。
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