ホテル ポラリス  彼女と彼とそのカレシ?
「女優より目立つなんて、やぁねぇ」

「いや、そっちじゃなくて……」

言いかけて止めるのは須藤の癖だ。口が重く、その分、笙子がお喋りだから、気に留める者もない。
正反対な夫婦だけれど、あと二十年もすれば彼らも似てくるのだろうか。

ふと、多恵は奥のふたりに目をやった。
玲丞はまだ懲りずに、切なげな視線を多恵に向けている。カオルはお構いなしにひとり喋り続けている。

フンと多恵は背を向けた。

ふたりがどんな夫婦になろうが関係ないけれど、あんな女と二股を掛けられたうえ捨てられたなど、悔しくて仕方がない。
だいたい、あの写真の女性とは似ても似つかぬではないか。

──だからなのか……。

玲丞の瞳が、多恵の体を通して別の誰かを見つめていると気づいたのは、いつだっただろう。

そう、冬の日溜まりではなとうたた寝していた彼が、寝ぼけて多恵を抱き寄せむせび泣いたとき、多恵は悟ってしまった。彼の心は今も、遙か彼方のポラリスにある──と。

多恵の玲丞への想いは、恋と呼ぶには冷静すぎて、友情と呼ぶには切なすぎた。
ただ、彼を大切にしたかった。失いたくないと思っていた。
それが愛だと気づかせてくれたのは、そのとき胸を貫いた痛みだった。

その日から、多恵は行き場のない思いを胸に押し込めて、どんなに司に絞り上げられても、自分さえも欺き続けてきた。
愛なんて言葉を口にすれば、彼が苦しむだろうから。

多恵が死者を蘇らすのなら、悪魔のようなカオルは天使をも封じたのかもしれない……。
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