ホテル ポラリス 彼女と彼とそのカレシ？

5 『タイムリミットは近いぜ』

「ちょっと見て！」

玲丞は、ノートパソコンから上げた難しい顔をバルコニーへ向け、空の眩しさに目を細めた。
カオルが後ろ手においでおいでをしている。

「仕事なんていいから、早く来なよ」

悪戯な笑みで早く早くと急かされて、仕方ないと玲丞は立ち上がった。

「結婚式よ、やぁ～ねぇ」

岬の突端に、白い石柱の祭壇がある。
紺碧の大海原をバックに、雲一つない抜けるような青空の下、今まさに誓いのキスが行われようとしていた。

「あ～あ、そのキッスが悪魔との契約だとも知らないで、バカな男ねぇ」

ホットパンツの薄い尻を突き出し、手摺りに頬杖ついて、カオルは嘆くように呟いた。

玲丞はそんなことかと廻れ右をした。

「あ、多恵だ！」

玲丞は慌てて身を翻し、カオルが指差す先を見た。
海を背に、多恵が駈け上ってくる。スカートが太股まで捲り上がるのも気にせず、一生懸命な顔つきだ。

モクレンの木陰では、菜々緒が大和を叱りながら、手慣れたリズムでカフェテーブルに白とピンクのテーブルクロスを掛けていた。
カラフルなバルーンや花のオーナメントに飾られているところをみると、ウエディングパーティーの準備のようだ。

背後でウェディングベルが鳴り響いた。
気を取られて振り返った多恵が、とたんに躓いた。
思わず両手を差し出す玲丞の思いもむなしく、彼女は派手にすっ転んだ。

「どんくさ」

カオルは楽しそうに嗤う。

「あらぁ、そーとー痛かったのねぇ。なかなか立ち上がらないわ〜。おおっ、慌てて立ち上がったぁ。辺りを窺って……、目撃者がいないことを確認して、ひとりで照れ笑い！」

カオルは爆笑した。