ホテル ポラリス  彼女と彼とそのカレシ?
「玲は真面目で不器用なのよ。あんまり苛めないでやってちょうだい」

「そうでしょうか? 私にはとても器用な方に見えますけど」

何せ、バイセクシャルであることを隠し通し、三股もかけていたのだから。

「彼はさぁ、相手から強引に迫られると、断りきれずに付き合っちゃうタイプなの」

「なんじゃそりゃ?」と、多恵は心の中で突っ込んだ。まったくフォローになってない。

「つまりね、彼のやさしさを勘違いしないでほしいの。藁をも掴みたい気持ちはわかるけど、彼を苦しめるだけよ」

人を腐して、面白いのか? 悦に入ってるのか?
だいたい、今も昔もこちらから交際を迫ったわけではないし、偶然再会した昔の女を追いかけ回しているのは玲丞の方で、こちとら迷惑しているのだ。

腹立ち紛れに、多恵は皮肉を込めて言った。

「ご心配なく。亡くなられた恋人を想い続けていらっしゃる方には興味ありませんから」

突然、カオルが目を剥いた。

「玲、麻里奈のこと話したの?」

やはり、あの冬の日溜まりで多恵を抱きしめ呼んだのは、恋人の名前だったのか。

「いいえ、よけいなことを申しました。申し訳ございません」

「待て!」

いきなり手首を掴まれて、多恵は体を硬直させた。
その手は男の手だった。
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