ホテル ポラリス  彼女と彼とそのカレシ?
「ここのスタッフはマネージャ思いで、それに働き過ぎね。本多ちゃんなんか、一昨日は真夜中に戻ってきた酔っぱらいを部屋まで運んでくれて、早朝には磯釣りの仕度をしてくれたわ」

近くに森が迫った岩場があり、磯釣りの絶好ポイントとなっている。そこから少し歩くと小さな砂浜もあって、シーズンにはフェルカド特製のサンドイッチや飲料をクーラーボックスに詰め、海水浴やシュノーケリングを愉しむことができる。
それらの手配はすべて兼コンシェルジュの本多の仕事だ。

それにしても、どんなに呑んでも変わらない玲丞が人の手を借りるほど酔うなんて、珍しいこともある。

「釣果はいかがでしたか?」

カオルはとたんに目を輝かせた。

「石鯛が釣れたから、ランチに刺身にしてもらったの。やっぱり自分でしとめた獲物は格別よねぇ」

「それはよろしかったですね」

「ねぇ」

まだ喋るのかと、多恵は心の中でぼやいた。

「その花は何?」

百日紅(さるすべり)です」

「ずいぶん落ちてるけど、もうおしまい?」

辺りは一面、朱い絨毯が敷かれている。

「いいえ、百日紅の花は咲いては散り、散っては咲き、夏の間中、次々と花を咲かせます」

「元気な花ねぇ、あなたみたい」

カオルはカラカラと笑う。

どういう意味かと考えてみたが、正解はわからなかった。たぶん、しぶといとか、ろくでもないことだろう。

「玲は写真家になるのが夢だったのよ」

唐突に昔話が始まって、多恵は何のこっちゃと首を捻った。
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