こじらせハイスペ御曹司に、プロポーズ(!?)されました

1話 大嫌いなアイツと再会

〇国立美術館・外(夜)
立派な外観の美術館。

咲良(18歳の誕生日まで、あと3ヵ月の夏)
咲良(私、桜庭咲良は)

そこをやや距離をとって二人で歩く、高校の制服姿の桜庭咲良(さくらば さくら)(17)と、宝山游(ほうざん ゆう)(17)。
游はすらりと背が高く、正統派のイケメン。

咲良(世界一嫌いな男と)
游は、にやりと笑い咲良を振り返る。

咲良(婚約をしました)
向き合う二人。咲良は、睨むように游を見ている。

(始まりは、少し前――)

×   ×   ×

〇丸山高校・教室(昼)
担任と向かい合って座っている、咲良。
担任「成績もトップ。絵画コンクールでも日本一をとったお前が――」

担任「どうして、大学に進学しないんだ?」
真顔でまっすぐ担任の先生を見ている咲良。

咲良「うちには、そんな余裕ないので」
担任「奨学金だってある。それに、成績次第では学費免除だってあるんだ」
担任「お前が望めば、美大だって」

咲良(わかってる……)
咲良「……」
切なげににこっと笑う咲良。
咲良(だけど、本当にうちにはそんな余裕がないのだ)

〇桜庭家のアパート・キッチン(朝)
古びたアパートの1階。2Kほどの、広くはない間取り。
年季の入ったキッチンで慌ただしくお弁当を作っている、制服姿の咲良。
咲良「ママ、ご飯作っといたからね!」

母親のゆき子(40)は、すぐとなりにある和室に寝そべり、顔だけ上げる。
・ゆき子…体が弱そうな細身の美人な女性。
ゆき子「ありがと…」

咲良(心身ともにバランスを崩しがちな母親と)

咲良「今日も帰りは遅いから、たけるのお迎えだけよろしくね!」
ゆき子「はーい」
慌ただしく、お弁当をつかんで玄関へといそぐ咲良。
保育園児である弟のたける(4)の手を引いている。

咲良(まだ幼い弟)

たける「いってきまぁす」
ゆき子「いってらっしゃい…」

咲良(学費を免除されたところで、私には学んでいる余裕がない)

〇回想・イメージとして
咲良(パパの事業が大当たりしたおかげで、子どもの頃は裕福だったけど)
きれいな格好で仲良く手を繋いでいる咲良(6)、ゆき子(29)、父親(35)。

咲良(取引先の裏切りで、業績はみるみる悪化)
(多額の借金を抱えたパパは、ママのお腹にたけるが宿ったことを知らないまま)
(一人、先立ってしまった――)
頭を抱えている父親や、自殺を連想させる屋上に綺麗に並べられた二足の革靴など。

〇外・路上(朝)
たけると手を繋ぎ、歩いている咲良。
咲良(だから、私の進路はただ一つ)
(家族を守るために働くこと!)

咲良「がんばるぞー!」
拳を振り上げる咲良。
たける「おー!」
よくわからないまま、笑顔のたける。

その傍に停まっている、黒塗りの高級車。

高級車の後部座席の窓が少し空いている。
車の中から、咲良のことを無表情でじっと見つめている游。

〇丸山高校・外観(夕方)
「バイバーイ」などと、ざわざわと、生徒達が帰っていく様子。

その中を、いそいで正門に向かっている咲良。
咲良(やばい、バイト遅れる!)

正門の辺りで、そわそわと女子達が囁き合っている様子。
咲良(なんだろ?)
咲良が顔を上げると、
正門の外には、黒塗りの車が停まっている。
車の前に立っていたのは、すらりと背の高いイケメンの游。

咲良と游、目が合う。
咲良「!?」
咲良「あんた……」

游はまっすぐ咲良の方へと歩いて来る。
咲良(宝山財閥の一人息子、宝山游!)

咲良(こいつの顔は、一生忘れない)

〇回想・姫川絵画教室・中
咲良(裕福だった頃、私は金持ちばかりが通う絵画教室に通っていた)
立派な絵画教室内の風景。

咲良(8)と、游(8)が、水彩画を手に並んで立っているイメージ。
咲良の絵には『金賞』リボンがつけられ、游の絵には『銀賞』がつけられている。
にっこり笑っている咲良と、不機嫌そうに咲良を睨む游。
咲良(ずっと私のことをライバル視して)

游と取っ組み合いのケンカをしている様子。
咲良(散々いがみ合っていた仲)

咲良(絵を盗られたりもしたし)
咲良が泣いている。モブ子ども達に、「游が盗んだ」と指を指されている游。
游はムスッとした顔でそっぽを向いている。

咲良(大っ嫌いなヤツ!)

〇回想終わり

咲良「久しぶりだね」
咲良「何しに来たの?」
ムスッとした顔で、游に対峙する咲良。

游「お前を、迎えに来た」
咲良「え……?」

ぐいっと咲良に顔を近づける游。
游「俺がお前と、結婚してやる」
上から目線だが、真面目な顔で言い放つ游。

目を丸くする咲良。
周囲の女子達は、突然のプロポーズに、「きゃああっ」と歓声を上げる。

咲良「け、結婚してやるって……」
咲良「な、何、その面白くもない冗談!」
顔を赤くし、どぎまぎと怒る咲良。

咲良、慌てて歩き出そうとする。
咲良「私、バイトだから」
游「連絡しておいた。今日は休むって」
咲良「は!?」
咲良「……なんで……そんなことまで……」
バイト先を知っていることにも驚きを感じ、唖然と游を見てしまう。

游「理由、知りたいか?」
咲良「……」
言葉を待ち、じっと游を睨むように見つめる咲良。

〇国立美術館・中(夕方)
誰もいない、広々とした美術館。
『高校生全日本絵画コンクール』という立て看板。

歩いていく游と、その後ろに続く不機嫌顔の咲良。
游「お前はあの頃から、いつも金賞だの最優秀賞だのを取ってたよな」
咲良「まあ……去年、まではね」

游「今年お前が出品しなかったおかげで、ついに俺が、トップを獲ってしまった」
游が立ち止まった背後には、大きな絵画。繊細で綺麗な風景画。
絵画には、『最優秀賞 宝山游』のプレート。
游はまったく嬉しそうではなく、ふてぶてしく文句でも言うような顔をしている。

咲良「そう……」
咲良(悔しいけど、やっぱいい絵描くな……)
何も言えず、悔しさからぎゅっと手のひらを握る咲良。

游「出さなかった理由をお前の学校の教師に聞いたら」
游「大学進学をあきらめたって言うじゃないか」
ため息まじりの游。
咲良(いつの間に、そんなことを……)
驚きと呆れ顔の咲良。

游「ずっと、お前に勝つ日を楽しみにしていたのに」
游「勝手に、俺との勝負の舞台から降りるな」
咲良「あんたと勝負を始めたおぼえはない」
呆れを通り越して怒りを感じる咲良。

游「もう、絵を描かないつもりか?」
咲良「それは……」

咲良(子どもの頃から、絵を描くことが何よりの楽しみだった)
(だけど、気づいちゃったんだ)
(絵を描くにはお金がかかる)
(それに絵を描いたところで、私には未来がないんだって)

投げやりな気持ちで、自嘲気味に笑う咲良。
咲良「目のかたきがいなくなってよかったじゃない」
咲良「私はお金持ちのお坊ちゃんと違って、絵を描いてる暇なんてないの」
咲良「じゃ、さよなら」
踵を返し、壁際を歩き出す咲良。

が、ぐいと、咲良を壁に追い詰める游。
咲良「なっ…」
頬がやや赤くなる咲良。

游「美大に行きたいんだろう?」
游「まだ、絵を描いていたいんだろう?」
咲良「!」

咲良(そんなの……当たり前だよ)
(だけど、私には叶わない夢……)
堪え切れず、目に涙の膜が張る咲良。

游「お父さんが亡くなってから」
游「生活が苦しいから、絵を諦めるしかなかった」
游「そうだろ……」
わずかに、同情するような表情が覗く。

素直に頷くこともできず、眉をひそめるだけの咲良。

游「俺と結婚すれば、生活に困ることはない」
咲良「!?」
咲良「結婚って……本気で言ってるの?」
游「冗談で言ってるように見えるか?」

咲良「……何企んでるの?」
游「企みとは聞き捨てならないな」
游「俺はただ、お前との勝負に決着をつけられていないことが気に食わない」
游「それだけだ」

咲良、思わず乾いた笑いが漏れる。
咲良「絵で私に勝つための結婚……か」
咲良「本当、相変わらずの道楽お坊ちゃんだね」

咲良「結婚は、好きな人とするものでしょ」
游「好きな男、いるのか?」
咲良「いない、けど……」

游が、くいと咲良の顎を取り自分の方を向かせる。
游「だったら、好きにさせてみせる」

游の真剣なイケメン顔に、かーっと顔を赤くする咲良。

游「俺と結婚すれば、学ぶ時間だってあるし、生涯の安定も約束される」
游「こんないい条件はないと思うけど」

間近で游を見つめる咲良。
咲良(絵を描くため、生活の安定のために……)
(結婚?)
(大嫌いな、宝山游と――)

咲良、悔しさと葛藤にさいなまれる。
游「18歳になる日までに、決めてもらえればいい」
咲良「……」

咲良(パパが死んだあの日から)
(自分のことは全部諦めてきた)
(特に、絵を諦めたことは何よりも辛かった……)

キッと顔を上げる。
咲良(勝負でもなんでも、絵を描き続けることができるなら)
(利用させてもらわない手は、ないのかもしれない)

咲良「……わかった」
間近で游を睨む咲良。
咲良「前向きに、考える」

〇同・外(夜)
噴水が上がる前庭。
黒塗りの、游の車が停まっている。

咲良、スマホを見る。
電話が鳴っている。
咲良「あっ、バイト先から」
咲良、慌ててスマホを耳に、少し離れていく。
それを気にしながら、美術館の前庭に停められていた車に乗り込む游。

〇車内(夜)
前庭に停めてあった車の後部座席に乗り込む游。
運転席には、ガタイがよく強面でスーツ姿の松本(40)が座っている。
松本「お嬢様は?」
游「電話だそうです」

松本「それで……」
松本「プロポーズについては……」
何か企む感じで、深刻そうに聞く松本。

游、照れくさそうに、
游「これはたぶん……成功」

游「したと思います」
真っ赤になった顔を隠す游。

ギャグテイストでパッと顔を輝かせる松本。

〇車外(夜)
松本の声「お、おめでとうございます~!」
車の外でスマホに耳をあてている咲良。
「?」と車を振り返っている。
< 1 / 9 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop