こじらせハイスペ御曹司に、プロポーズ(!?)されました
2話 アイツが優しいわけがない!
〇車内(夜)
1話の帰り道という設定。
後部座席に並んで座っている游と咲良。
游、ちらっと咲良を横目で見る。
游(桜庭咲良……)
游(俺はお前を、ずっと追いかけ続けてきた)
〇回想・姫川絵画教室・中
咲良(8)の筆を奪っているヤンチャでイジワルな游(8)。
游(小学生の頃から、常に目障りなヤツで)
少し離れたところから、絵を描く咲良を少し頬染めで目で追っている游。
游(気づいたら、目で追ってしまう存在で)
〇回想・表彰式会場
絵画コンクールの表彰式の1コマ。
賞状を手にしてキラキラと輝くような笑みを浮かべる咲良(11)。
それを、少し下がった位置から見ている游(11)。
游(いつもお前は、輝いていて……)
游(俺のことなんてどうでもいいって顔をしてるお前を)
游(いつか、振り向かせてみたかった)
〇回想・咲良のバイト先のファミレス
游(お前に絵で勝つその日だけを目標に生きてきたのに)
游(まさか、絵を描くことを諦めることになっていたなんて……)
ファミレスの外を、ウェイターの服装で掃除している咲良。
それを、黒塗りの車の中から見ている游。
游(そんなの)
游(放っておけるわけがないだろう!)
〇回想・宝山家・リビング
広々とした和風のリビングに、向かい合って座っている游(17)と、宝山省三(55)。
・宝山省三…游の父親。宝山財閥の現トップであり、威厳ある風貌。
游が、綺麗な姿勢で深々と頭を下げる。
游「――彼女に、援助をお願いできないでしょうか?」
省三「……その桜庭咲良という女性は、お前が結婚を考えている相手ということでいいのだな?」
游「結婚?」
省三「お前が生涯を共にする相手でなければ、宝山家が援助する理由はないだろう」
游、じっと考えて。
游「はい。ゆくゆくは、結婚を考えている相手です」
省三「ゆくゆくとはいわず、すぐにでも結婚するといい」
省三「愛する人とは、常に寄り添うべきだ」
省三の背後の仏壇には、宝山芽衣子(28)の遺影が飾られている。
游はそれをちらりと見て。
游「……はい」
〇回想ここまで
〇車内(夜)
游「ということで、お父様には3年ほど前から付き合ってることになってる」
游「明日にでも、顔合わせを……」
咲良「ちょ、ちょっと待って!」
咲良「いきなり無理だよ!」
咲良「だって私、あんたのこと何も知らない!」
咲良「イジワルなヤツってことくらいしか……」
じとっと游を睨む咲良。
游「悪かったな……」
游「あれは、若気の至りだ。笑って許せ」
咲良「許せるわけないでしょ!」
游「じゃ、この結婚でチャラに」
咲良「くぅ~~!!」
松本(本当にプロポーズ、成功したのかな……)
ひやひやと二人をバッグミラー越しに見ている松本。
〇桜庭家のアパート・前(夜)
咲良達が乗る車が、桜庭家のアパートの前で停まる。
ドアを開け、外に出る咲良。
咲良「(松本に)送っていただき、ありがとうございました」
游「その……いつでも連絡できるよう……」
游「連絡先を――」
コホンと咳払いしながら、照れ気味にスマホを取り出そうとする游。
が、家の方を見た咲良の声によって遮られる。
咲良「えっ」
咲良、慌てて家に向かって駆けていく。
游「どうした?」
咲良の家の玄関のドアは、不自然に開きっぱなしだった。
游「!?」
游も、車から出ようとする。
〇同・中(夜)
慌てて中に飛び込む咲良。
部屋の電気は消えている。
咲良「ママ! たける!」
ゆき子がテーブルにつっぷして寝ている。
手元には、何本かのチューハイの缶。
咲良「ママ……また飲んじゃったの?」
愕然としている咲良。
ゆき子は、ようやく目を開ける。
咲良「ねえ、たけるは!?」
ゆき子「たける……?」
ゆき子「保育園にお迎えに行って……」
ゆき子「それで……」
事の深刻さをやっと理解した様子で、青ざめて周りを見るゆき子。
ゆき子「た、たけるは……!?」
咲良が辺りを見回すと、たけるの保育園バッグが置かれている。(確かに迎えには行ったということ)
その傍には、積み木で遊んだ形跡。荒らされているわけではなく、遊び途中でどこかへ行ったような雰囲気。
慌てて玄関へと走る咲良。
玄関の外には、游がいる。
游「何があった!?」
〇同・外(夜)
慌てふためいている咲良。
咲良「たけるが……弟が、いないの!」
咲良「はやく、探さなきゃ!」
游「待て!」
慌てて走り出した咲良の腕を、つかむ游。
スマホを耳に当てながら、何事かと車から降りて来た松本の方を見ながら言う。
游「松さん、警察に電話をお願いします」
松本「あ、はい!」
游「(電話に)游です。お手伝いさん総動員で、人探しをお願いしたいんですが」
游「(咲良に)特徴は?」
咲良「……背が、100センチちょっとで……」
咲良「服は……今日は、白いTシャツと水色の半ズボンだった……」
不安げに言葉をつむぐ咲良。
それを、電話の相手に伝えていく游。
游「ええ、頼みます。すぐに!」
電話口で、慌ただしく話す游。
游、電話を切って。
游「これで、隣町までの捜査網は完璧だ」
游「お前は、車の中で待ってろ」
咲良「で、でも……」
不安や困惑で肩が小さく震えている咲良。
游、咲良の震える肩を見て。
そっと、その肩の震えを抑えるかのように咲良を抱き寄せる。
游「大丈夫だ、すぐに見つかる」
はっとする咲良。
游「必ず、見つかるから」
咲良の肩を抱きそっとさする游。
真剣に、諭すように言う。
咲良(大嫌いなのに……)
咲良(なんで、少し、安心してるんだろう……?)
驚いている咲良の顔。目には涙がたまっている。
しかし、咲良は游の胸を押し返す。
咲良「……あんたに、頼ってばかりじゃいられない」
咲良「私も、探さなきゃ」
游、咲良を観察するように見つめ、咲良がじっとしていられないということを察する。
游(……じっとしていられないんだな)
游「……わかった」
游「一緒に探すぞ」
咲良「え……」
游「ほら!」
と、游は咲良の手を引く。
二人で走り出す。
〇道(夜)
走っている二人。
咲良「たけるー!」
游「たけるくーん!」
〇また別の道(夜)
咲良「たける! どこなの!?」
游「たけるくん!」
游が、咲良を振り返る。
游「あっちも探そう!」
汗をかいている游。
咲良「うん!」
真剣な顔で走っていく游と、それを追い掛ける咲良。
咲良は、ちらっと游を見る。
咲良(なんなの?)
(なんでこんなに真剣に探してくれるの?)
游のスマホの着信音が鳴る。
游「はい!」
游「え、たけるくんが――」
游「無事に、見つかった!」
咲良にも聞かせるように、咲良を見て満面の笑みを浮かべる游。
咲良、游の笑顔に少し驚く。
游「はい、わかりました! すぐに向かいます!」
電話を切った游は、咲良を満面の笑みのまま覗き込む。
游「誘拐されたわけでも、怪我してるわけでもなさそうだ!」
游「よかったな!」
咲良、ほっとする。
咲良「うん……よかった……」
游「よし、早くたけるくんに――」
游、咲良の肩と足に手をかけて……
游「会いに行こう!」
游、ひょいと咲良をお姫様だっこにする。
咲良「ええっ!?」
じたばたする咲良。
咲良「ちょっと、下ろしてよ!」
游「じっとしてろ! お前が走るより、こっちの方が早い!」
微笑んで前をまっすぐ見て走る游の顔を、驚き顔で至近距離から見る咲良。
咲良(なんなの、コイツ……)
咲良(なんなの――!?)
咲良、顔を赤くしている。
〇咲良がバイトしているファミレス・外(夜)
駐車場にいるたける。べそをかいている。
たけるに寄り添っているゆき子。
周りには、警察官と、宝山家の秘書やメイドなどが数人いる。
咲良の声「たける!」
涙を浮かべた咲良が、笑顔で駆けていく。
それを見て、ぱっと顔を輝かせるたける。
たける「ねぇね!」
しっかりと抱き合う咲良と、たけると、ゆき子。
それを少し離れたところから見守る游。
安心し、優しい顔。
咲良「ここって、私のバイト先だよね?」
咲良「たける、もしかして、ねぇねのこと……」
たける「うん。迎えに行こうと思ったの……」
たける「いつも遅くて、かわいそうだから……」
咲良「そっか……ごめんね」
さらに、じわっと涙が溢れてくる咲良。
ぎゅっとたけるを抱きしめる咲良。
咲良「ありがとうね」
そこに、申し訳なさそうに近づく警察官。
警察官「あの……」
警察官「おたく、以前も迷子になって通報があった桜庭さんだよね」
警察官「今回は、児童相談所に――」
咲良、遮って。
咲良「待ってください! 今日は、本当に、たまたま……」
警察官「お母さん、お酒飲んでたんでしょ?」
申し訳なさそうにうつむくゆき子と、
何も言えず唇を噛む咲良。
咲良(聞いたことがある)
咲良(児相が介入してきたら、離れ離れにならなきゃいけないこと)
咲良は、抱きしめていたたけるをさらに強く抱きしめる。
警察官「だから――」
游「問題ない」
游「もう、こんなことは起きないからな」
警察官「? あなた誰」
游、落ち着いた大人の顔で自己紹介をする。
游「宝山財閥の跡取りである、宝山游と申します」
警察官「えっ、あの、宝山財閥の!?」
游「宝山ホールディングスの次期社長であり……」
游「咲良さんの、婚約者です」
ゆき子「え……?」
咲良「えっと……」
驚くゆき子と、突然の紹介に戸惑いの咲良。
游「咲良さんの誕生日がきたら、結婚をさせていただきたく」
游「ご挨拶が遅くなり、申し訳ございません」
と、真剣にゆき子に挨拶する游。
ゆき子「さ、咲良……あなた、結婚するの!?」
驚きつつも、期待を込めて前のめりなゆき子。
たける「ねぇね、お嫁さん?」
咲良(前向きに、とは言ったけど……)
驚きと期待に満ちた目で、咲良を見るゆき子とたける。
二人を見て、気持ちが揺れる。
咲良(だけど結婚したら、家族全員一緒にいられるってことだよね……)
咲良、意を決して游の隣に並ぶ。
そして自分から腕を組む。
咲良「そうなの。私達、婚約してます」
作り笑顔の咲良。
ゆき子「ええっ!!」
心から嬉しそうなゆき子。
たける「わあ」
よくわからないが興奮して目を輝かせているたける。
游、組んだ腕を意識して少し頬を赤らめている。
〇車内(夜)
バタンと後部座席のドアが閉まる。
游が乗り込んできた様子。
游「今夜は、パトカーで送るそうです」
松本「そうですか」
游、満足げな顔で。
游「よかった。お母さまへの挨拶も、無事すんだな」
松本、冷や汗ながら微笑む。
松本「おめでとうございます、游さん」
游「俺の熱意が、通じたようです」
頬を染めて、嬉しそうな素直な微笑み。
松本、運転し始めながら。
松本「(プロポーズも、あんな感じで強引にいったんだろうな、やっぱ……)」
松本「(游さん、あの頃から素直じゃなかったからなぁ……)」
〇回想・姫川絵画教室・(中)
絵を盗まれて泣いている咲良と、モブ子ども達に「游が盗んだ」と指を指されている游。ムスッとした顔。(1話の回想と同じ)
教室の隅の方で、慌てた様子で游に話しかけている松本(32)。
松本「游さん、どうして盗っちゃったんですか?」
游「すごくいい絵だから、欲しかった」
ムスッとした顔のまま言う游。
松本「そういうのは、言葉で、言葉で言わないとぉ……!」
〇回想ここまで
〇車内(夜)
松本「(言葉よりも先に、手が出るタイプ……)」
清々しい気持ちで窓の外を流れる夜景を見ている游。
松本「(本当にこの結婚、うまくいくのかな……)」
1話の帰り道という設定。
後部座席に並んで座っている游と咲良。
游、ちらっと咲良を横目で見る。
游(桜庭咲良……)
游(俺はお前を、ずっと追いかけ続けてきた)
〇回想・姫川絵画教室・中
咲良(8)の筆を奪っているヤンチャでイジワルな游(8)。
游(小学生の頃から、常に目障りなヤツで)
少し離れたところから、絵を描く咲良を少し頬染めで目で追っている游。
游(気づいたら、目で追ってしまう存在で)
〇回想・表彰式会場
絵画コンクールの表彰式の1コマ。
賞状を手にしてキラキラと輝くような笑みを浮かべる咲良(11)。
それを、少し下がった位置から見ている游(11)。
游(いつもお前は、輝いていて……)
游(俺のことなんてどうでもいいって顔をしてるお前を)
游(いつか、振り向かせてみたかった)
〇回想・咲良のバイト先のファミレス
游(お前に絵で勝つその日だけを目標に生きてきたのに)
游(まさか、絵を描くことを諦めることになっていたなんて……)
ファミレスの外を、ウェイターの服装で掃除している咲良。
それを、黒塗りの車の中から見ている游。
游(そんなの)
游(放っておけるわけがないだろう!)
〇回想・宝山家・リビング
広々とした和風のリビングに、向かい合って座っている游(17)と、宝山省三(55)。
・宝山省三…游の父親。宝山財閥の現トップであり、威厳ある風貌。
游が、綺麗な姿勢で深々と頭を下げる。
游「――彼女に、援助をお願いできないでしょうか?」
省三「……その桜庭咲良という女性は、お前が結婚を考えている相手ということでいいのだな?」
游「結婚?」
省三「お前が生涯を共にする相手でなければ、宝山家が援助する理由はないだろう」
游、じっと考えて。
游「はい。ゆくゆくは、結婚を考えている相手です」
省三「ゆくゆくとはいわず、すぐにでも結婚するといい」
省三「愛する人とは、常に寄り添うべきだ」
省三の背後の仏壇には、宝山芽衣子(28)の遺影が飾られている。
游はそれをちらりと見て。
游「……はい」
〇回想ここまで
〇車内(夜)
游「ということで、お父様には3年ほど前から付き合ってることになってる」
游「明日にでも、顔合わせを……」
咲良「ちょ、ちょっと待って!」
咲良「いきなり無理だよ!」
咲良「だって私、あんたのこと何も知らない!」
咲良「イジワルなヤツってことくらいしか……」
じとっと游を睨む咲良。
游「悪かったな……」
游「あれは、若気の至りだ。笑って許せ」
咲良「許せるわけないでしょ!」
游「じゃ、この結婚でチャラに」
咲良「くぅ~~!!」
松本(本当にプロポーズ、成功したのかな……)
ひやひやと二人をバッグミラー越しに見ている松本。
〇桜庭家のアパート・前(夜)
咲良達が乗る車が、桜庭家のアパートの前で停まる。
ドアを開け、外に出る咲良。
咲良「(松本に)送っていただき、ありがとうございました」
游「その……いつでも連絡できるよう……」
游「連絡先を――」
コホンと咳払いしながら、照れ気味にスマホを取り出そうとする游。
が、家の方を見た咲良の声によって遮られる。
咲良「えっ」
咲良、慌てて家に向かって駆けていく。
游「どうした?」
咲良の家の玄関のドアは、不自然に開きっぱなしだった。
游「!?」
游も、車から出ようとする。
〇同・中(夜)
慌てて中に飛び込む咲良。
部屋の電気は消えている。
咲良「ママ! たける!」
ゆき子がテーブルにつっぷして寝ている。
手元には、何本かのチューハイの缶。
咲良「ママ……また飲んじゃったの?」
愕然としている咲良。
ゆき子は、ようやく目を開ける。
咲良「ねえ、たけるは!?」
ゆき子「たける……?」
ゆき子「保育園にお迎えに行って……」
ゆき子「それで……」
事の深刻さをやっと理解した様子で、青ざめて周りを見るゆき子。
ゆき子「た、たけるは……!?」
咲良が辺りを見回すと、たけるの保育園バッグが置かれている。(確かに迎えには行ったということ)
その傍には、積み木で遊んだ形跡。荒らされているわけではなく、遊び途中でどこかへ行ったような雰囲気。
慌てて玄関へと走る咲良。
玄関の外には、游がいる。
游「何があった!?」
〇同・外(夜)
慌てふためいている咲良。
咲良「たけるが……弟が、いないの!」
咲良「はやく、探さなきゃ!」
游「待て!」
慌てて走り出した咲良の腕を、つかむ游。
スマホを耳に当てながら、何事かと車から降りて来た松本の方を見ながら言う。
游「松さん、警察に電話をお願いします」
松本「あ、はい!」
游「(電話に)游です。お手伝いさん総動員で、人探しをお願いしたいんですが」
游「(咲良に)特徴は?」
咲良「……背が、100センチちょっとで……」
咲良「服は……今日は、白いTシャツと水色の半ズボンだった……」
不安げに言葉をつむぐ咲良。
それを、電話の相手に伝えていく游。
游「ええ、頼みます。すぐに!」
電話口で、慌ただしく話す游。
游、電話を切って。
游「これで、隣町までの捜査網は完璧だ」
游「お前は、車の中で待ってろ」
咲良「で、でも……」
不安や困惑で肩が小さく震えている咲良。
游、咲良の震える肩を見て。
そっと、その肩の震えを抑えるかのように咲良を抱き寄せる。
游「大丈夫だ、すぐに見つかる」
はっとする咲良。
游「必ず、見つかるから」
咲良の肩を抱きそっとさする游。
真剣に、諭すように言う。
咲良(大嫌いなのに……)
咲良(なんで、少し、安心してるんだろう……?)
驚いている咲良の顔。目には涙がたまっている。
しかし、咲良は游の胸を押し返す。
咲良「……あんたに、頼ってばかりじゃいられない」
咲良「私も、探さなきゃ」
游、咲良を観察するように見つめ、咲良がじっとしていられないということを察する。
游(……じっとしていられないんだな)
游「……わかった」
游「一緒に探すぞ」
咲良「え……」
游「ほら!」
と、游は咲良の手を引く。
二人で走り出す。
〇道(夜)
走っている二人。
咲良「たけるー!」
游「たけるくーん!」
〇また別の道(夜)
咲良「たける! どこなの!?」
游「たけるくん!」
游が、咲良を振り返る。
游「あっちも探そう!」
汗をかいている游。
咲良「うん!」
真剣な顔で走っていく游と、それを追い掛ける咲良。
咲良は、ちらっと游を見る。
咲良(なんなの?)
(なんでこんなに真剣に探してくれるの?)
游のスマホの着信音が鳴る。
游「はい!」
游「え、たけるくんが――」
游「無事に、見つかった!」
咲良にも聞かせるように、咲良を見て満面の笑みを浮かべる游。
咲良、游の笑顔に少し驚く。
游「はい、わかりました! すぐに向かいます!」
電話を切った游は、咲良を満面の笑みのまま覗き込む。
游「誘拐されたわけでも、怪我してるわけでもなさそうだ!」
游「よかったな!」
咲良、ほっとする。
咲良「うん……よかった……」
游「よし、早くたけるくんに――」
游、咲良の肩と足に手をかけて……
游「会いに行こう!」
游、ひょいと咲良をお姫様だっこにする。
咲良「ええっ!?」
じたばたする咲良。
咲良「ちょっと、下ろしてよ!」
游「じっとしてろ! お前が走るより、こっちの方が早い!」
微笑んで前をまっすぐ見て走る游の顔を、驚き顔で至近距離から見る咲良。
咲良(なんなの、コイツ……)
咲良(なんなの――!?)
咲良、顔を赤くしている。
〇咲良がバイトしているファミレス・外(夜)
駐車場にいるたける。べそをかいている。
たけるに寄り添っているゆき子。
周りには、警察官と、宝山家の秘書やメイドなどが数人いる。
咲良の声「たける!」
涙を浮かべた咲良が、笑顔で駆けていく。
それを見て、ぱっと顔を輝かせるたける。
たける「ねぇね!」
しっかりと抱き合う咲良と、たけると、ゆき子。
それを少し離れたところから見守る游。
安心し、優しい顔。
咲良「ここって、私のバイト先だよね?」
咲良「たける、もしかして、ねぇねのこと……」
たける「うん。迎えに行こうと思ったの……」
たける「いつも遅くて、かわいそうだから……」
咲良「そっか……ごめんね」
さらに、じわっと涙が溢れてくる咲良。
ぎゅっとたけるを抱きしめる咲良。
咲良「ありがとうね」
そこに、申し訳なさそうに近づく警察官。
警察官「あの……」
警察官「おたく、以前も迷子になって通報があった桜庭さんだよね」
警察官「今回は、児童相談所に――」
咲良、遮って。
咲良「待ってください! 今日は、本当に、たまたま……」
警察官「お母さん、お酒飲んでたんでしょ?」
申し訳なさそうにうつむくゆき子と、
何も言えず唇を噛む咲良。
咲良(聞いたことがある)
咲良(児相が介入してきたら、離れ離れにならなきゃいけないこと)
咲良は、抱きしめていたたけるをさらに強く抱きしめる。
警察官「だから――」
游「問題ない」
游「もう、こんなことは起きないからな」
警察官「? あなた誰」
游、落ち着いた大人の顔で自己紹介をする。
游「宝山財閥の跡取りである、宝山游と申します」
警察官「えっ、あの、宝山財閥の!?」
游「宝山ホールディングスの次期社長であり……」
游「咲良さんの、婚約者です」
ゆき子「え……?」
咲良「えっと……」
驚くゆき子と、突然の紹介に戸惑いの咲良。
游「咲良さんの誕生日がきたら、結婚をさせていただきたく」
游「ご挨拶が遅くなり、申し訳ございません」
と、真剣にゆき子に挨拶する游。
ゆき子「さ、咲良……あなた、結婚するの!?」
驚きつつも、期待を込めて前のめりなゆき子。
たける「ねぇね、お嫁さん?」
咲良(前向きに、とは言ったけど……)
驚きと期待に満ちた目で、咲良を見るゆき子とたける。
二人を見て、気持ちが揺れる。
咲良(だけど結婚したら、家族全員一緒にいられるってことだよね……)
咲良、意を決して游の隣に並ぶ。
そして自分から腕を組む。
咲良「そうなの。私達、婚約してます」
作り笑顔の咲良。
ゆき子「ええっ!!」
心から嬉しそうなゆき子。
たける「わあ」
よくわからないが興奮して目を輝かせているたける。
游、組んだ腕を意識して少し頬を赤らめている。
〇車内(夜)
バタンと後部座席のドアが閉まる。
游が乗り込んできた様子。
游「今夜は、パトカーで送るそうです」
松本「そうですか」
游、満足げな顔で。
游「よかった。お母さまへの挨拶も、無事すんだな」
松本、冷や汗ながら微笑む。
松本「おめでとうございます、游さん」
游「俺の熱意が、通じたようです」
頬を染めて、嬉しそうな素直な微笑み。
松本、運転し始めながら。
松本「(プロポーズも、あんな感じで強引にいったんだろうな、やっぱ……)」
松本「(游さん、あの頃から素直じゃなかったからなぁ……)」
〇回想・姫川絵画教室・(中)
絵を盗まれて泣いている咲良と、モブ子ども達に「游が盗んだ」と指を指されている游。ムスッとした顔。(1話の回想と同じ)
教室の隅の方で、慌てた様子で游に話しかけている松本(32)。
松本「游さん、どうして盗っちゃったんですか?」
游「すごくいい絵だから、欲しかった」
ムスッとした顔のまま言う游。
松本「そういうのは、言葉で、言葉で言わないとぉ……!」
〇回想ここまで
〇車内(夜)
松本「(言葉よりも先に、手が出るタイプ……)」
清々しい気持ちで窓の外を流れる夜景を見ている游。
松本「(本当にこの結婚、うまくいくのかな……)」