こじらせハイスペ御曹司に、プロポーズ(!?)されました
4話 器用で不器用なヤツ
〇美術実習室・中
授業中、生徒達が、中央に置かれた石膏像のデッサンをしている。
ずらりと並んでいる生徒達。
真面目に、デッサンに取り組んでいる咲良。
咲良(――楽しい!)
それを、向かい側から同じくデッサンしながら見ている游。
咲良(胸が高揚するこの感じ、すごく久しぶりだな)
ふわりと、思わず微笑みが漏れる。
咲良(子どもの頃)
(友達と遊ぶよりも、流行りのアイドルを追いかけるよりも)
(私はいつまでも、絵だけを描いていたかった)
(一筆一筆が私の想いを象っていくこの瞬間が、すごく好きだった)
ふと目が合う咲良と游。
游は真顔で、ぷいっと顔を逸らす。
咲良「?」
咲良(……気のせいか)
一方で、真面目な顔でデッサンを続ける游。
游(描いてる時のあいつの姿、あの頃と変わらないな)
〇回想・姫川絵画教室
子ども達が、中央に置かれたリンゴのデッサンをしている。
楽しそうに微笑みながら、デッサンしている咲良(8)。
それを向かい側から同じくデッサンしながら見ている游(8)。
頬を染めている。
游(楽しそうだな……)
〇回想ここまで
〇美術実習室・中
デッサンをしながら、少し頬を染めて優しく微笑む游。
游(あいつが楽しそうで、よかった……)
〇道路(夕方)
学校帰りに、走っている咲良。
咲良(バイト、遅刻だ~!)
そこに、黒塗りの游の車が停まる。
後部座席の窓が開き……
游「帰りくらい送ると言っただろ」
咲良「いや、ほんと、送迎なんて図々しいから!」
必死に逃げるように走る咲良。
逃すまいと、横にぴったりとついて窓から必死に叫ぶ游。
游「バイトももう辞めていいといったはずだぞ!」
咲良「すぐに辞めたら迷惑でしょ~!」
游「とにかく、バイト先まで――」
咲良「本当、大丈夫だから~!」
と、ダッシュで走っていってしまう咲良。
〇車内(夕方)
ウイーンと閉まる窓。
不満げで暗い顔の游。じっと考えている。
游「おかしい……避けられている気がする」
松本「え? そ、そうですかね……!?」
松本(やっと、お気づきに……!)
游「松さん、結婚してますよね?」
松本「え、まあ」
游「いい夫って、どうしたらなれますか?」
松本「ええっ……そうですねえ。あ、今は家事をする夫がいい、なんて言われてますけど……」
游「家事」
真顔ながら、キラーンと游の目が輝く。
游、家事について思いを巡らせる。
松本「まあ、游さんは家事はやらない方がいいでしょうね」
という松本の言葉は、全く耳に入っていない様子。
〇桜庭家のマンション・玄関(夜)
高級そうな玄関。
ガチャッと扉が開き、制服姿の咲良が入ってくる。
咲良「ただいまー」
ん?と玄関に置かれた男物の革靴に気づく咲良。
〇同・リビング(夜)
慌ててリビングへと入って来る咲良。
咲良「ママ、誰か来て――」
カチャカチャと、キッチンから聞こえる食器に触れ合う音。
エプロン姿、シャツを腕まくりしている游が、器用に食器洗いをしている。
ピカピカの食器。
咲良「ええええっ」
咲良「ちょ、え、何?」
咲良「ママ、たける!」
完全にパニックっている咲良。
あたふたと周りを見ると……
ドアが開いた寝室に、すやすやと幸せそうに眠るゆき子とたけるの姿が見える。
咲良(えええええっ!?)
游「おかえり」
咲良「あ、えっと、ただいま」
静かに、寝室のドアを閉める咲良。
咲良「ねえ、何してるの?」
何をしているかはわかるものの、この状況が把握できず青ざめて聞く咲良。
游「皿洗いだ」
咲良「いや、それはわかってるんだけど」
游「食事も作ったし、洗濯と掃除もしておいた」
完璧な游に、ガクブルと震える咲良。
咲良(お坊ちゃまのくせに、なんでもできるのか……!)
咲良「いいって、もうやめて」
慌てて游に駆け寄る咲良。
游「最後までやらせろよ」
咲良、ぐっと真顔になり。
咲良「自分勝手で強引なところ、あの頃と全然変わらないんだね」
游「自分勝手? 俺が?」
咲良「自覚ないの?」
咲良「そういうところ、すごく嫌いだった」
游(嫌い……!)
わかりやすくショックを受ける游。
咲良(って、生活の面倒見てもらってるのに)
(こんなこと言っちゃ駄目だよね)
咲良「……ごめん。忘れて」
咲良「だけど私に絵を描かせるための偽装結婚なら、あんたがこんなことする必要ないでしょ」
と、皿洗いを変わる咲良。
押しのけられる形で、場所を譲る游。
游、前のめりになって咲良を覗き込む。
游「偽装結婚とは言ったつもりはないけど」
游「俺は本気で、お前の夫になるつもりだ」
真剣な顔で言われ、思わず顔を赤くする咲良。
咲良(え……?)
その拍子に、ナイフで指を切ってしまう。
咲良「いたっ……」
はっとする游。
バッと咲良の手を取り、すぐに切った指に唇を当てる。
咲良「!?」
游「薬箱は?」
咲良「あ、あの……棚の中……」
游「座って」
咲良、言われるがままソファに座る。
游が薬箱を持って、咲良の指をとる。
真剣な顔で、咲良の指を消毒する游。
その様子を、ドキドキしながら見ている咲良。
咲良(本気で夫になるつもりって……どういうこと?)
咲良「指を手当してくれてるのは……私が絵描きだから、だよね?」
游「ああ」
游「絵が描けなくなったら、俺との勝負もできなくなるし」
咲良「それ以上の気持ちは、ないんだよね?」
游「それ以上の……気持ち?」
游の手が、ぴたりと止まる。
恥ずかしくなり、慌てて話を逸らそうとする咲良。
咲良「いや、ないならいいの!」
游「なくは、ない」
游「……すぐ、どうにかしてやりたいと思ったし……」
咲良「え……?」
考え込んでいた游の顔が、カーっと赤く染まっていく。
咲良(え……???)
游、顔を上げて咲良を見つめながら言葉を探す。
咲良も驚き、思わず游を見つめる。
游(俺はあの頃からずっと、お前だけを見ていた)
(楽しそうなお前も、嬉しそうなお前も、悲しそうなお前も……)
手当をして触れていた咲良の手を、柔らかく握る游。
游「俺、お前にイジワルばかりしてきたよな……」
游「自分勝手で、強引で……悪かった」
頬を染めながらも謝られたことに面食らう咲良。
顔を染めたまま、さらに言葉を探す游。
游「だけど……俺はお前を、嫌いだったわけじゃない……」
游「今思うことは……」
游「お前には、いつも笑っていてほしい……ってことだ」
思わず、游の真剣な顔に見入ってしまう咲良。
〇回想・姫川絵画教室(夕方)
暗い顔で、段ボールに画材道具を詰め込んでいる咲良(12)。
絵画教室を辞める日。
周りの子ども達は、コソコソと噂している。
子ども1「お父さん死んじゃったって」
子ども2「お金なくなったって、ママが……」
その声が聞こえ、咲良は怒りと共に目に涙をためる。
そこに、背後から何かを差し出す游(12)。
游「ん」
咲良「……何?」
怪訝そうな咲良。
游「……お前に似てるから、やる」
それは、にっこりスマイルマークのついた髪飾り。
咲良(似てる……? これが?)
咲良「……ありがと」
涙を浮かべた目で、不思議そうに受け取る咲良。
〇回想ここまで
〇桜庭家のマンションの部屋・咲良の部屋(夜)
まだ段ボールが積まれた部屋。
その段ボールの中から、古びたブリキのおもちゃの缶を取り出して開ける咲良。
ビー玉やおもちゃのイヤリングなどが入っている缶の中には、スマイルマークのついた髪飾りが入っている。
咲良(そっか)
(これくれたの、あいつだったっけ……)
〇回想・姫川絵画教室(夕方)
回想の続き。
游「あとこれ……盗ってごめん。返す」
と、一枚の絵(画用紙に描いた淡い水彩画)を渡す。
咲良「それは……いらない。あげる」
游「え……」
咲良「いらない……!」
まるでその絵を毛嫌いしているかのように、咲良は言い放つ。
〇回想終わり
〇宝山家・游の部屋(游)
広い、キレイな片付いた部屋。
咲良の家から帰ってきた、游が入ってくる。
デスクの近くに貼られている絵を見る。
それは、あの頃咲良に返せなかった、一枚の絵。
親子三人が仲良く手を繋いでいるような、抽象画っぽい淡い水彩画。
人物の顔や性別ははっきりしないが、父・母・子の三人で、そのタッチからとても幸せそうな雰囲気が伝わって来る。
游はその絵を、優しい表情で見つめている。
游、そっとその絵に触れて……
游「桜庭咲良……俺は、お前のことが……」
游「好……」
游「……」
游「好……!?」
咲良への想いを自覚し、ぼっと顔が赤くなる游だった。
授業中、生徒達が、中央に置かれた石膏像のデッサンをしている。
ずらりと並んでいる生徒達。
真面目に、デッサンに取り組んでいる咲良。
咲良(――楽しい!)
それを、向かい側から同じくデッサンしながら見ている游。
咲良(胸が高揚するこの感じ、すごく久しぶりだな)
ふわりと、思わず微笑みが漏れる。
咲良(子どもの頃)
(友達と遊ぶよりも、流行りのアイドルを追いかけるよりも)
(私はいつまでも、絵だけを描いていたかった)
(一筆一筆が私の想いを象っていくこの瞬間が、すごく好きだった)
ふと目が合う咲良と游。
游は真顔で、ぷいっと顔を逸らす。
咲良「?」
咲良(……気のせいか)
一方で、真面目な顔でデッサンを続ける游。
游(描いてる時のあいつの姿、あの頃と変わらないな)
〇回想・姫川絵画教室
子ども達が、中央に置かれたリンゴのデッサンをしている。
楽しそうに微笑みながら、デッサンしている咲良(8)。
それを向かい側から同じくデッサンしながら見ている游(8)。
頬を染めている。
游(楽しそうだな……)
〇回想ここまで
〇美術実習室・中
デッサンをしながら、少し頬を染めて優しく微笑む游。
游(あいつが楽しそうで、よかった……)
〇道路(夕方)
学校帰りに、走っている咲良。
咲良(バイト、遅刻だ~!)
そこに、黒塗りの游の車が停まる。
後部座席の窓が開き……
游「帰りくらい送ると言っただろ」
咲良「いや、ほんと、送迎なんて図々しいから!」
必死に逃げるように走る咲良。
逃すまいと、横にぴったりとついて窓から必死に叫ぶ游。
游「バイトももう辞めていいといったはずだぞ!」
咲良「すぐに辞めたら迷惑でしょ~!」
游「とにかく、バイト先まで――」
咲良「本当、大丈夫だから~!」
と、ダッシュで走っていってしまう咲良。
〇車内(夕方)
ウイーンと閉まる窓。
不満げで暗い顔の游。じっと考えている。
游「おかしい……避けられている気がする」
松本「え? そ、そうですかね……!?」
松本(やっと、お気づきに……!)
游「松さん、結婚してますよね?」
松本「え、まあ」
游「いい夫って、どうしたらなれますか?」
松本「ええっ……そうですねえ。あ、今は家事をする夫がいい、なんて言われてますけど……」
游「家事」
真顔ながら、キラーンと游の目が輝く。
游、家事について思いを巡らせる。
松本「まあ、游さんは家事はやらない方がいいでしょうね」
という松本の言葉は、全く耳に入っていない様子。
〇桜庭家のマンション・玄関(夜)
高級そうな玄関。
ガチャッと扉が開き、制服姿の咲良が入ってくる。
咲良「ただいまー」
ん?と玄関に置かれた男物の革靴に気づく咲良。
〇同・リビング(夜)
慌ててリビングへと入って来る咲良。
咲良「ママ、誰か来て――」
カチャカチャと、キッチンから聞こえる食器に触れ合う音。
エプロン姿、シャツを腕まくりしている游が、器用に食器洗いをしている。
ピカピカの食器。
咲良「ええええっ」
咲良「ちょ、え、何?」
咲良「ママ、たける!」
完全にパニックっている咲良。
あたふたと周りを見ると……
ドアが開いた寝室に、すやすやと幸せそうに眠るゆき子とたけるの姿が見える。
咲良(えええええっ!?)
游「おかえり」
咲良「あ、えっと、ただいま」
静かに、寝室のドアを閉める咲良。
咲良「ねえ、何してるの?」
何をしているかはわかるものの、この状況が把握できず青ざめて聞く咲良。
游「皿洗いだ」
咲良「いや、それはわかってるんだけど」
游「食事も作ったし、洗濯と掃除もしておいた」
完璧な游に、ガクブルと震える咲良。
咲良(お坊ちゃまのくせに、なんでもできるのか……!)
咲良「いいって、もうやめて」
慌てて游に駆け寄る咲良。
游「最後までやらせろよ」
咲良、ぐっと真顔になり。
咲良「自分勝手で強引なところ、あの頃と全然変わらないんだね」
游「自分勝手? 俺が?」
咲良「自覚ないの?」
咲良「そういうところ、すごく嫌いだった」
游(嫌い……!)
わかりやすくショックを受ける游。
咲良(って、生活の面倒見てもらってるのに)
(こんなこと言っちゃ駄目だよね)
咲良「……ごめん。忘れて」
咲良「だけど私に絵を描かせるための偽装結婚なら、あんたがこんなことする必要ないでしょ」
と、皿洗いを変わる咲良。
押しのけられる形で、場所を譲る游。
游、前のめりになって咲良を覗き込む。
游「偽装結婚とは言ったつもりはないけど」
游「俺は本気で、お前の夫になるつもりだ」
真剣な顔で言われ、思わず顔を赤くする咲良。
咲良(え……?)
その拍子に、ナイフで指を切ってしまう。
咲良「いたっ……」
はっとする游。
バッと咲良の手を取り、すぐに切った指に唇を当てる。
咲良「!?」
游「薬箱は?」
咲良「あ、あの……棚の中……」
游「座って」
咲良、言われるがままソファに座る。
游が薬箱を持って、咲良の指をとる。
真剣な顔で、咲良の指を消毒する游。
その様子を、ドキドキしながら見ている咲良。
咲良(本気で夫になるつもりって……どういうこと?)
咲良「指を手当してくれてるのは……私が絵描きだから、だよね?」
游「ああ」
游「絵が描けなくなったら、俺との勝負もできなくなるし」
咲良「それ以上の気持ちは、ないんだよね?」
游「それ以上の……気持ち?」
游の手が、ぴたりと止まる。
恥ずかしくなり、慌てて話を逸らそうとする咲良。
咲良「いや、ないならいいの!」
游「なくは、ない」
游「……すぐ、どうにかしてやりたいと思ったし……」
咲良「え……?」
考え込んでいた游の顔が、カーっと赤く染まっていく。
咲良(え……???)
游、顔を上げて咲良を見つめながら言葉を探す。
咲良も驚き、思わず游を見つめる。
游(俺はあの頃からずっと、お前だけを見ていた)
(楽しそうなお前も、嬉しそうなお前も、悲しそうなお前も……)
手当をして触れていた咲良の手を、柔らかく握る游。
游「俺、お前にイジワルばかりしてきたよな……」
游「自分勝手で、強引で……悪かった」
頬を染めながらも謝られたことに面食らう咲良。
顔を染めたまま、さらに言葉を探す游。
游「だけど……俺はお前を、嫌いだったわけじゃない……」
游「今思うことは……」
游「お前には、いつも笑っていてほしい……ってことだ」
思わず、游の真剣な顔に見入ってしまう咲良。
〇回想・姫川絵画教室(夕方)
暗い顔で、段ボールに画材道具を詰め込んでいる咲良(12)。
絵画教室を辞める日。
周りの子ども達は、コソコソと噂している。
子ども1「お父さん死んじゃったって」
子ども2「お金なくなったって、ママが……」
その声が聞こえ、咲良は怒りと共に目に涙をためる。
そこに、背後から何かを差し出す游(12)。
游「ん」
咲良「……何?」
怪訝そうな咲良。
游「……お前に似てるから、やる」
それは、にっこりスマイルマークのついた髪飾り。
咲良(似てる……? これが?)
咲良「……ありがと」
涙を浮かべた目で、不思議そうに受け取る咲良。
〇回想ここまで
〇桜庭家のマンションの部屋・咲良の部屋(夜)
まだ段ボールが積まれた部屋。
その段ボールの中から、古びたブリキのおもちゃの缶を取り出して開ける咲良。
ビー玉やおもちゃのイヤリングなどが入っている缶の中には、スマイルマークのついた髪飾りが入っている。
咲良(そっか)
(これくれたの、あいつだったっけ……)
〇回想・姫川絵画教室(夕方)
回想の続き。
游「あとこれ……盗ってごめん。返す」
と、一枚の絵(画用紙に描いた淡い水彩画)を渡す。
咲良「それは……いらない。あげる」
游「え……」
咲良「いらない……!」
まるでその絵を毛嫌いしているかのように、咲良は言い放つ。
〇回想終わり
〇宝山家・游の部屋(游)
広い、キレイな片付いた部屋。
咲良の家から帰ってきた、游が入ってくる。
デスクの近くに貼られている絵を見る。
それは、あの頃咲良に返せなかった、一枚の絵。
親子三人が仲良く手を繋いでいるような、抽象画っぽい淡い水彩画。
人物の顔や性別ははっきりしないが、父・母・子の三人で、そのタッチからとても幸せそうな雰囲気が伝わって来る。
游はその絵を、優しい表情で見つめている。
游、そっとその絵に触れて……
游「桜庭咲良……俺は、お前のことが……」
游「好……」
游「……」
游「好……!?」
咲良への想いを自覚し、ぼっと顔が赤くなる游だった。