こじらせハイスペ御曹司に、プロポーズ（！？）されました
８話 何があったって、前向きに！
〇宝山学園高等学校・外観（朝）
翌朝。
〇同・廊下（朝）
咲良（学費は卒業後になんとか返して……）
（マンションは……うーん、夜逃げ……？）
（でもママとたけるもいるし……）
などとあれこれ考えながら歩いている咲良
ふと、周りの視線が自分に集まっていることに気づく。
咲良（？ なんだろ）
と思いながら教室に入ると……。
〇同・３年A組教室内（朝）
黒板には、『婚約解消おめでとう』『出てけ、邪魔女！』『貧乏に戻れ！！』など、咲良に向けられた暴言が描かれている。
咲良（誰が、こんなこと……）
モブ女子達の囁きが、耳に入る。
『かなり宝山くんに守られてたし……』
『もう守られないってことだもんねー』
『ふふ、いい気味』
咲良（なんで……）
（なんで、こんなことに……）
咲良はぐっと悲しみをこらえ、歩き出す。
黒板消しを手にし、文字を必死に消していく。
すると、隣に並ぶ男子の影。
それは、一緒に黒板消しで文字を消していく游の姿だった。
游「……ごめんな」
小さな声で咲良にだけ届く声で言う游。
咲良、思わず「ううん」とうつむく。
咲良（やっぱり、私がいると、良いことなんて――）
突然、ダンッという音が響き渡る。
それは、游が教壇を思い切り叩いた音だった。
教室が、水を打ったように静まり返る。
教壇に手を置いた游は、怒りに満ちた顔で教室内を見渡す。
游「確かに、俺達の婚約は一旦白紙になった」
游「だけど、俺が咲良を愛していることに、変わりはない」
咲良「！？」
ざわっとする室内。
游「俺の愛する人を傷つける奴は、俺が絶対に許さない」
怒りに満ちた真顔で言い放つ游。
思わず、游の姿に釘付けになる咲良だった。
〇屋上
咲良と由乃が、お弁当を食べている。
由乃「私のせいで、ごめんね」
由乃「教室に通ってるこの学校の生徒が、盗み聞きしてたみたいで……」
心から申し訳なさそうな由乃。
咲良「ううん！ 由乃ちゃんはぜんっぜん悪くないよ！」
咲良「どんなにイジワルされたって、私は大丈夫！」
咲良「それよりも、姫川先生を紹介してもらったこと、すごく嬉しかったんだから」
由乃「咲良ちゃーん……」
うるうる目の由乃。
由乃「それにしても、游くん、かっこよかったね」
由乃「まさかあんなこと、皆の前で宣言するなんて」
咲良「うん……」
咲良「かっこよかった」
ふと、頬が赤くなる咲良。
由乃「！ ねえ、咲良ちゃんも、やっぱり游くんのこと好きなんじゃないの！？」
咲良「えっ……」
咲良「ううん、そんなことない……と思う」
咲良「ああいうふうに、男子に好意を向けられたことなんてなかったし」
咲良「その気持ちが、たんに嬉しいだけで……」
由乃「うーん……そっか」
由乃「だけどさ。もしやっぱ結婚することになったら、遠慮せず言ってね」
由乃「お父さんも、選ぶのは咲良ちゃんだって言ってたし」
咲良「うん……ありがと」
咲良（本当に、ありがとう。由乃ちゃん）
（それに……游も）
（誰にどんな酷いことをされたとしても）
（味方になってくれる人が少しでもいるだけで）
（私は強くいられるから！）
〇同・正門（夕方）
一人、バイトへと急いでいる咲良。
周囲の女子生徒達がこそこそと噂している。
『婚約解消されたらしいよ』『よくここにいられるね』『図々しい……』
少し耳を傾けてしまうも、咲良は笑みすら浮かべて前を向く。
咲良（なんと言われようと）
（游にもらった機会は、絶対に無駄にしない！）
（いつ辞めることになっても後悔しないように、今は勉強しまくるのみ！）
タッタッタっと走っていく咲良。
それを少し離れた黒塗りの車の後部座席から、見ている游。
游「……行ってください」
運転席の松本が、心配そうに聞く。
松本「いいんですか？」
游「はい。自分勝手で強引な自分を改めると決めたんです」
游「幸せそうな顔してたんで」
游「それを確認できただけで……」
と、優しい顔で微笑む游。
松本「……わかりました」
松本も、優しい微笑みで、車を発車させる。
〇宝山学園高等学校・美術実習室
先生「皆さんには、秋の宝山祭に向けて作品制作に取り掛かってもらいます」
先生「テーマは、『家族』です」
咲良（家族、か）
と、ゆき子とたけるの顔を思い浮かべる咲良。
咲良（うんうん、いい絵が描けそう……！）
わくわくした様子の咲良。
咲良（テーマが発表されてから数日間）
（私はとにかく、無我夢中で描き続けた）
別の日。
絵を描いている咲良。
その背後で、足を止める游。
はっと気配を感じて振り返る咲良。
游「！」
咲良「びっくりした！」
游「授業終わったぞ。まったく、ちゃんと耳ついてるのか？」
咲良「え、本当？」
慌てて周りを見回すが、生徒は誰もいない。
咲良「あああ……またやってしまった」
咲良「由乃ちゃんは？」
游「先生に呼ばれてさっき出てったぞ」
咲良「そうだ……毎回、由乃ちゃんがいるとは限らない……」
慌てて道具を片づける咲良。
游「やっぱり、俺がお前を連れて歩こうか？」
咲良「結構です」
咲良「また格好の噂のネタになるんだから」
游「まあ、そうだな」
游「ようやく最近、嫌がらせも減ってきたわけだし」
游、咲良をさりげなくバッグハグする。
游「そろそろ、俺のものになってもいい頃じゃないか？」
急なスキンシップにドッキンとする咲良。
顔を真っ赤にして游の腕を振り払う。
咲良「し、心臓に悪いことしないでよ！」
游「恥ずかしがりやだな、咲良は」
咲良（もう……強引卒業宣言はどうしたのよ）
と、真っ赤なまま道具の片付けを続ける咲良。
游、咲良の絵をじっと見つめる。
咲良の絵は、咲良と、ゆき子と、たけるを連想させる抽象画。
柔らかく幸せなタッチで、游は思わず頬をほころばせる。
游「……いい絵だな」
咲良「ふふ、ありがとう」
游「もう、ここまで進めてるんだな」
咲良「やる気満々だからね！」
咲良「絶対に、あんたには負けないから！」
游「今度こそ勝ってみせる。せいぜい、油断しておけ」
咲良「油断してるのは……」
咲良「どっち？」
と、絵具を游の手につける。
游「あっ！ 何するんだよ」
咲良「あの頃のお返し」
游「１０年前のことを根に持つなんて、お前、相当暗い女だな」
咲良「ははっ、性格極悪なあんたよりましだね！」
二人、笑い合っている。
咲良（婚約してた時より）
（普通に楽しく話せてる気がする）
（このままの関係が続いたらいいのに……）
（なんて、都合のいい話だよね）
やや離れた場所。
游と楽しそうに笑っている咲良を、じっと睨んでいるモブ女子達。
〇宝山家・游の部屋（夜）
游、部屋の真ん中に布にくるんだキャンバスを置く。
布をゆっくりと広げていく。
游（同級生の大半が、もうすぐ宝山祭の絵を完成させるっていうのに）
游が広げたキャンバスは、真っ白。
游「はあ……」
游「次は絶対に勝つなんて、どの口が言ってるんだか」
游「『家族』……か」
游「ついに、一番苦手なテーマが来てしまったな」
深刻な顔で、じっと考え込む游。
翌朝。
〇同・廊下（朝）
咲良（学費は卒業後になんとか返して……）
（マンションは……うーん、夜逃げ……？）
（でもママとたけるもいるし……）
などとあれこれ考えながら歩いている咲良
ふと、周りの視線が自分に集まっていることに気づく。
咲良（？ なんだろ）
と思いながら教室に入ると……。
〇同・３年A組教室内（朝）
黒板には、『婚約解消おめでとう』『出てけ、邪魔女！』『貧乏に戻れ！！』など、咲良に向けられた暴言が描かれている。
咲良（誰が、こんなこと……）
モブ女子達の囁きが、耳に入る。
『かなり宝山くんに守られてたし……』
『もう守られないってことだもんねー』
『ふふ、いい気味』
咲良（なんで……）
（なんで、こんなことに……）
咲良はぐっと悲しみをこらえ、歩き出す。
黒板消しを手にし、文字を必死に消していく。
すると、隣に並ぶ男子の影。
それは、一緒に黒板消しで文字を消していく游の姿だった。
游「……ごめんな」
小さな声で咲良にだけ届く声で言う游。
咲良、思わず「ううん」とうつむく。
咲良（やっぱり、私がいると、良いことなんて――）
突然、ダンッという音が響き渡る。
それは、游が教壇を思い切り叩いた音だった。
教室が、水を打ったように静まり返る。
教壇に手を置いた游は、怒りに満ちた顔で教室内を見渡す。
游「確かに、俺達の婚約は一旦白紙になった」
游「だけど、俺が咲良を愛していることに、変わりはない」
咲良「！？」
ざわっとする室内。
游「俺の愛する人を傷つける奴は、俺が絶対に許さない」
怒りに満ちた真顔で言い放つ游。
思わず、游の姿に釘付けになる咲良だった。
〇屋上
咲良と由乃が、お弁当を食べている。
由乃「私のせいで、ごめんね」
由乃「教室に通ってるこの学校の生徒が、盗み聞きしてたみたいで……」
心から申し訳なさそうな由乃。
咲良「ううん！ 由乃ちゃんはぜんっぜん悪くないよ！」
咲良「どんなにイジワルされたって、私は大丈夫！」
咲良「それよりも、姫川先生を紹介してもらったこと、すごく嬉しかったんだから」
由乃「咲良ちゃーん……」
うるうる目の由乃。
由乃「それにしても、游くん、かっこよかったね」
由乃「まさかあんなこと、皆の前で宣言するなんて」
咲良「うん……」
咲良「かっこよかった」
ふと、頬が赤くなる咲良。
由乃「！ ねえ、咲良ちゃんも、やっぱり游くんのこと好きなんじゃないの！？」
咲良「えっ……」
咲良「ううん、そんなことない……と思う」
咲良「ああいうふうに、男子に好意を向けられたことなんてなかったし」
咲良「その気持ちが、たんに嬉しいだけで……」
由乃「うーん……そっか」
由乃「だけどさ。もしやっぱ結婚することになったら、遠慮せず言ってね」
由乃「お父さんも、選ぶのは咲良ちゃんだって言ってたし」
咲良「うん……ありがと」
咲良（本当に、ありがとう。由乃ちゃん）
（それに……游も）
（誰にどんな酷いことをされたとしても）
（味方になってくれる人が少しでもいるだけで）
（私は強くいられるから！）
〇同・正門（夕方）
一人、バイトへと急いでいる咲良。
周囲の女子生徒達がこそこそと噂している。
『婚約解消されたらしいよ』『よくここにいられるね』『図々しい……』
少し耳を傾けてしまうも、咲良は笑みすら浮かべて前を向く。
咲良（なんと言われようと）
（游にもらった機会は、絶対に無駄にしない！）
（いつ辞めることになっても後悔しないように、今は勉強しまくるのみ！）
タッタッタっと走っていく咲良。
それを少し離れた黒塗りの車の後部座席から、見ている游。
游「……行ってください」
運転席の松本が、心配そうに聞く。
松本「いいんですか？」
游「はい。自分勝手で強引な自分を改めると決めたんです」
游「幸せそうな顔してたんで」
游「それを確認できただけで……」
と、優しい顔で微笑む游。
松本「……わかりました」
松本も、優しい微笑みで、車を発車させる。
〇宝山学園高等学校・美術実習室
先生「皆さんには、秋の宝山祭に向けて作品制作に取り掛かってもらいます」
先生「テーマは、『家族』です」
咲良（家族、か）
と、ゆき子とたけるの顔を思い浮かべる咲良。
咲良（うんうん、いい絵が描けそう……！）
わくわくした様子の咲良。
咲良（テーマが発表されてから数日間）
（私はとにかく、無我夢中で描き続けた）
別の日。
絵を描いている咲良。
その背後で、足を止める游。
はっと気配を感じて振り返る咲良。
游「！」
咲良「びっくりした！」
游「授業終わったぞ。まったく、ちゃんと耳ついてるのか？」
咲良「え、本当？」
慌てて周りを見回すが、生徒は誰もいない。
咲良「あああ……またやってしまった」
咲良「由乃ちゃんは？」
游「先生に呼ばれてさっき出てったぞ」
咲良「そうだ……毎回、由乃ちゃんがいるとは限らない……」
慌てて道具を片づける咲良。
游「やっぱり、俺がお前を連れて歩こうか？」
咲良「結構です」
咲良「また格好の噂のネタになるんだから」
游「まあ、そうだな」
游「ようやく最近、嫌がらせも減ってきたわけだし」
游、咲良をさりげなくバッグハグする。
游「そろそろ、俺のものになってもいい頃じゃないか？」
急なスキンシップにドッキンとする咲良。
顔を真っ赤にして游の腕を振り払う。
咲良「し、心臓に悪いことしないでよ！」
游「恥ずかしがりやだな、咲良は」
咲良（もう……強引卒業宣言はどうしたのよ）
と、真っ赤なまま道具の片付けを続ける咲良。
游、咲良の絵をじっと見つめる。
咲良の絵は、咲良と、ゆき子と、たけるを連想させる抽象画。
柔らかく幸せなタッチで、游は思わず頬をほころばせる。
游「……いい絵だな」
咲良「ふふ、ありがとう」
游「もう、ここまで進めてるんだな」
咲良「やる気満々だからね！」
咲良「絶対に、あんたには負けないから！」
游「今度こそ勝ってみせる。せいぜい、油断しておけ」
咲良「油断してるのは……」
咲良「どっち？」
と、絵具を游の手につける。
游「あっ！ 何するんだよ」
咲良「あの頃のお返し」
游「１０年前のことを根に持つなんて、お前、相当暗い女だな」
咲良「ははっ、性格極悪なあんたよりましだね！」
二人、笑い合っている。
咲良（婚約してた時より）
（普通に楽しく話せてる気がする）
（このままの関係が続いたらいいのに……）
（なんて、都合のいい話だよね）
やや離れた場所。
游と楽しそうに笑っている咲良を、じっと睨んでいるモブ女子達。
〇宝山家・游の部屋（夜）
游、部屋の真ん中に布にくるんだキャンバスを置く。
布をゆっくりと広げていく。
游（同級生の大半が、もうすぐ宝山祭の絵を完成させるっていうのに）
游が広げたキャンバスは、真っ白。
游「はあ……」
游「次は絶対に勝つなんて、どの口が言ってるんだか」
游「『家族』……か」
游「ついに、一番苦手なテーマが来てしまったな」
深刻な顔で、じっと考え込む游。
