使えないと言われ続けた悪役令嬢のその後

第1話 アベリア・ハイドフェルド公爵令嬢

「本当にお前は使えない奴だな」

 今日もお父様の執務室でお小言を聞く。目を(つむ)り、後に続く「私の娘なのか疑わしいほどに」という言葉をやり過ごした。

 だって仕方がないじゃない。私はお父様の娘じゃないんだから。

 そう、私は乙女ゲーム『今宵の月は美しい?』の悪役令嬢、アベリア・ハイドフェルド公爵令嬢に転生した。
 美しい銀髪を(なび)かせ、青い瞳は自信満々に。微笑む姿さえも凛々しいく、社交界のカンパニュラと呼ばれるほどの人物だった。
 当人の性格は、悪役令嬢に設定されているため、カンパニュラの花言葉である「感謝」「誠実な愛」とは程遠かったけれど。そう呼ばずにはいられないくらい、アベリアはカンパニュラのように凛としていたのだ。

 しかし、今の私はどうだろうか。凛とするどころか背は俯き加減。
 カンパニュラと呼ばれる謂れとなった青いドレスを(まと)っているけれど、乙女ゲーム『今宵の月は美しい?』のパッケージイラストにいるアベリアとは雲梯の差だった。

 だから、お父様がそう疑うのも無理はない。
 本当のアベリアだったら、どう切り返すのだろうか。お父様から小言を言われても、髪を後ろに払い、堂々と「ごめんあそばせ」と笑い飛ばすのだろうか。

 私にはできない。だってお父様の言う通り私は『使えない』女なのだから。
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