使えないと言われ続けた悪役令嬢のその後
「あの、ち、近くないですか? それにエスコートだって、エリクセン殿下にはクリオ嬢という婚約者がいるのに、このようなことをするのは、よくないと思います」
「近くもないし、エスコートの方法も間違っていない。俺がここに居る理由も含めて、その誤解を解きたいんだ」
「ご、かい?」
「あぁ。そもそもクリオ嬢と婚約したのは俺じゃない」

 私は驚きのあまり、目をパチパチさせた。それがおかしかったのか、クククッとエリクセン殿下が笑う。

「すまない。しばらく会っていなかったから、もう俺の知るアベリアではなくなっている。そう思っていたから安心したんだ」
「そんなにコロコロ変わるほど、私は器用な人間ではありません」

 思わず拗ねて言うと、さらにおかしそうに笑う。けれどこれは、別にバカにして笑っているわけではない。
 幼い頃から知っているだけに、それだけは分かるのだ。

「うん。そこがアベリアの良いところさ。どんなに成長しても、どんな肩書を手にしても、アベリアだけは決して変わらなかった。心を開いてくれないのは今でも寂しいけど」
「それは……その……」

 本当のことを言えたら、どんなにいいか分からない。けれど、この優しい眼差しが冷たいものに変わるのが怖かった。
 拒絶されるのも。だから、婚約するのが怖かったのだ。

 エリクセン殿下に捨てられたくなかったから。優しいエリクセン殿下が好きだから。

「全部聞いたよ、クリオ嬢から」
「え?」
「ここはゲームの世界なんだってね。そこでの俺は、クリオ嬢と婚約をするために、アベリアに婚約破棄を言い渡して、この修道院に追放するって」
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