使えないと言われ続けた悪役令嬢のその後
 そう、本来なら、クリオが登場する前に、するはずだった王太子との婚約ができていなかったのだ。お父様が怒っているのも、それが理由である。
 だけど、できなかったものは仕方がない。私だって自分に魅力があるとは思えないのだから。

「お前がエリクセン殿下に、怯えるという失態を犯さなければ今頃は……!」
「申し訳ありません」

 違う。何も私に魅力がなかったわけではない。お父様の言う通り、私の態度が悪かったのだ。

 エリクセン・リンデン殿下に初めてお会いしたのは、幼い頃。まだ王太子ではなかった時の話である。

 転生したばかりの私は、とにかく乙女ゲーム『今宵の月は美しい?』の世界に慣れるのと、ストーリーを思い出すのに忙しかった。
 元々、器用な人間じゃないから、やることなすことあたふたあたふた。

 たとえば、教えられたことは、必ず一度は失敗すること。それも直後なのだから、冷たい視線が返って来るのは必須だった。

『こんなこともできないのですか?』

 使えませんのね。
 余韻の沈黙が、そう言っているように感じるほどに。

 だから、エリクセン殿下に初めてお会いした時は……もう酷かった。
 この方が将来、私を不幸のどん底に追いやるのだわ、と思ったら、怖くて怖くて。
 どんなにお優しい言葉をかけられても、私はそれにお応えすることはできなかった。

 優しいエリクセン殿下は、それでも公爵令嬢であり、婚約者候補筆頭であった私に歩み寄り続けてくれた。
 王城に招いてくださったり、我がハイドフェルド公爵邸に来てくださったり。公務への同行を求められ、実質、婚約者のようにも扱ってくださった。

 だから私はエリクセン殿下を、完全に拒否できなかったのだ。この世界で唯一、私に優しい視線をくれる方だから。私が逃げても見捨てず、根気よく向き合ってくれた人だから。
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