使えないと言われ続けた悪役令嬢のその後
***
翌日の早朝。
『出て行くのなら早い方がいい』
昨夜、別れの挨拶に来たと思っていた、攻略対象者の一人でもある兄のドナートに、言われた言葉だった。
少しも惜しんでくれない姿に、涙が出そうになる。
「アベリア様」
玄関から馬車へ向かおうとした瞬間、意外な人物に声をかけられた。
不安そうな顔で近づいて来るピンク色の髪の女性。それはまごうことなき、この乙女ゲーム『今宵の月は美しい?』のヒロインである……。
「クリオ嬢。……この度はご婚約、おめでとうございます」
「ありがとうございます。その、ドナート様からアベリア様が今日、立たれると聞いて、私……!」
「すまない。俺の配慮が足りなかったようだ」
クリオの近くにはエリクセン殿下が寄り添っていた。金髪碧眼という、まさに物語に出てくるような王子様だが、その手は可愛らしいクリオの肩にそっと添えられている。
私はそれを視界に入れないように、首を横に振った。
「いいえ。殿下のせいでも、クリオ嬢のせいでもありませんわ。ただ父に堪え性がなかったというだけです」
そう、別にエリクセン殿下と私は婚約していたわけではないのだ。だから当然、クリオに寝取られてもいない。
ただ私が『使えない』人間だったために起こった出来事だった。
未だに何故? という思いは拭えないけれど……。
翌日の早朝。
『出て行くのなら早い方がいい』
昨夜、別れの挨拶に来たと思っていた、攻略対象者の一人でもある兄のドナートに、言われた言葉だった。
少しも惜しんでくれない姿に、涙が出そうになる。
「アベリア様」
玄関から馬車へ向かおうとした瞬間、意外な人物に声をかけられた。
不安そうな顔で近づいて来るピンク色の髪の女性。それはまごうことなき、この乙女ゲーム『今宵の月は美しい?』のヒロインである……。
「クリオ嬢。……この度はご婚約、おめでとうございます」
「ありがとうございます。その、ドナート様からアベリア様が今日、立たれると聞いて、私……!」
「すまない。俺の配慮が足りなかったようだ」
クリオの近くにはエリクセン殿下が寄り添っていた。金髪碧眼という、まさに物語に出てくるような王子様だが、その手は可愛らしいクリオの肩にそっと添えられている。
私はそれを視界に入れないように、首を横に振った。
「いいえ。殿下のせいでも、クリオ嬢のせいでもありませんわ。ただ父に堪え性がなかったというだけです」
そう、別にエリクセン殿下と私は婚約していたわけではないのだ。だから当然、クリオに寝取られてもいない。
ただ私が『使えない』人間だったために起こった出来事だった。
未だに何故? という思いは拭えないけれど……。