しあわせのレシピブック

閑話:ニュイ=エトワール・リヴィエールの日常

 白くてふわふわとした、綿菓子のような長い髪がふわりと風に揺れていた。
 当然綿菓子ではないので、甘くもなければ美味しくもない。それは、彼の幼馴染みが言っていたことだった。
 王宮魔導師の制服であるローブは白く塗りつぶされ。後ろ姿を見ていると、真っ白だ。ふわふわだ。まさに綿菓子だ。
 ふ、と彼がこちらを見る。……見ている、のだと思う。細められた目の奥をうかがい知ることは出来ない。その目の色を見たことがあるのは、この世で四人だけだと、今ニュイを見ているソルティは知っていた。
「そうしていると絵になるのになあ」
「それは、褒められてるのかい?」
「褒めてる褒めてる」
 ソルティはからからと笑うと、ニュイの元へ歩き出す。
 王宮の庭園。一般人が立ち入ることなどあり得ないその場所に、ソルティがいるのはひとえに彼女がニュイたちの友人であり、ディッシュの「未来の嫁」だからである。
 認めたくはないが、利用できる分には利用させて頂く、とはソルティの弁だ。
 ……きっと、ラディッシュがここにいれば、はっきりと「素直じゃないね」と言われていたことだろう。
 さて、閑話休題。
「ここ、好きだな」
「まあ、本当はソルティも怒られちゃうんだけどね」
「そうなんだよね……本当はみんなに開放してほしいくらいなんだけど」
「優しいね。ソルティは」
「あはは、誰が優しいって?」
 ソルティはげんこつで少し高いところにある白い頭をぐりぐりする。
 しかし、くすくすと笑みをこぼすだけのニュイに、また、ソルティも笑い始めた。
「仲が良いね。ソルテちゃん、ニエトくん」
「しゅーちゃん!」
「ああ、来たね。しゅーちゃん」
「……えへへ」
 ティーセットを持ってやってきたのは、ふたりの友人……いや、「親友」であるラディッシュだ。
 彼女は庭園に備え付けられているテーブルに、ティーセットを置いていく。
「手伝おうか?」
「ううん。大丈夫」
 それに、とラディッシュが付け加える。
「ふたりは紅茶をいれるのとお菓子を用意するときにがんばってもらうから、ね?」
「当然!」
「ふふ、でもソルティは紅茶飲めないでしょう?」
「飲めなくはない。飲むのに時間がかかるだけだから」
「はいはい」
 ソルティはなんだかむっとした気分になった。
 ……ラディッシュとニュイは紅茶を美味しそうに飲む。対して、ソルティは……正直あまり得意ではない。
 それが、なんだかふたりにおいていかれているようで嫌だった。
 ――なんだか、自分だけこどもみたいで、嫌だった。
「ソルテちゃん」
「な、なんですか」
 思わず敬語で返せば、……ちょっと困ったような顔でラディッシュが言う。
「大丈夫だよ。ソルテちゃんは、」
「……わたしは」
「ソルテちゃんは……」
 じっくり間をおいて、ラディッシュは言い放つ。
「かわいい」
「かわいくないです」
 即答だった。
「うん、ソルティはかわいいよ」
「わたしなんかよりしゅーちゃんとニュイくんの方がかわいいって!」
「おや、わたしもかわいいなのかい」
「ニエトくんはかわいいよね」
「うん、かわいい」
 協議の結果。最終的に、ラディッシュ、ソルティ揃って「ニュイはかわいい」という結論に落ち着いた。
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