しあわせのレシピブック
シュトロイゼルとクルール
一方、朝。
シュトロイゼルは物音で起きた。……毎朝、同じ物音で目覚めている。
「おや、もうこんな時間か」
かたん、かたんと一定のリズムを刻んで鳴り響く音が何の音なのかくらい、もう「彼」と何年も共に暮らしているシュトロイゼルには理解できていた。
「少し待ってくれないか。支度がまだ出来ていないんだ」
そうして、朝支度をするのも、いつものことだ。
手早く寝間着から私服に着替え。廊下へと繋がる扉を開いた。
「おいで、クルール」
やはり、間違えることもなくそこにいたのはクルールで。
かたん、かたん、とリズミカルに扉を叩いていたらしいクルールが、そのまあるい瞳をシュトロイゼルへ向ける。
「食事か? ……菓子か?」
「あはは、大丈夫。きちんと食事を取るよ」
「うむ。よいことだ」
うむうむ。
クルールは頷きながらとてりとてりとキッチンの方面へと歩みを進めた。
それに続いて、シュトロイゼルも歩き出す。
「エレにも怒られるようになったからな」
ふふん。エレには頭が上がらないようだな。
こんな色をした声を、シュトロイゼルは知っていた。知った顔の宮廷魔導師のふたりがよくする、所謂。
(……いたずら好きの声)
シュトロイゼルは苦笑いをこぼした。
「エレくんに心配はかけられないからね」
と。
クルールのからかいを多分に含んだ声が、一気に拗ねたものに変わる。
「……それだと、我には心配をかけていいと……」
「あ、いや、そういう訳じゃ」
ないんだよ。
と、言いたかったのだが。そこまで言う前にクルールはすっかり腹を立ててしまったようで。
(……また拗ねさせてしまった)
何を問いかけても答えてくれなくなってしまったクルールに、困ったなあとシュトロイゼルは眉を下げた。
たどり着いたキッチンでも、どん、と椅子に座り込んで。
「朝ご飯は何がいい?」
「……」
「クルール?」
「……」
……こんなに機嫌を損ねてしまったのは久しぶりだな。
そう思いながらも、シュトロイゼルは魔法の準備をする。シュトロイゼルの魔法は、下準備がいるのだ。
用意したのは、粉だ。種類はなんでもいい。「粉」さえあれば、シュトロイゼルはそこから「料理」や「お菓子」を生み出すことが出来る。
今日用意した粉は、少々辛味を伴う粉だ。シュトロイゼルは辛味を意外と好んでいた。よく使う粉のひとつでもあるその粉と、宮廷魔導師のふたり組……ニュイとルージュが定期的に仕入れてくれる「砂糖」を混ぜる。
「……」
そうして、少し集中して。魔力を練り上げれば。
「ほら、朝ご飯だよ」
ちょっぴり辛味のきいた、ピザの乗ったトーストの完成だ。
す、とクルールの前に差し出せば。
「……」
クルールはそっぽを向いたまま、トーストに目もくれない。
「……エレくんに怒られてしまうよ」
「お前がな」
ほんの少しいたずらっ子の色を含んだ声が、困った様子のシュトロイゼルを軽くあしらっていく。
こうして、シュトロイゼルとクルールの日常は始まるのだった。
シュトロイゼルは物音で起きた。……毎朝、同じ物音で目覚めている。
「おや、もうこんな時間か」
かたん、かたんと一定のリズムを刻んで鳴り響く音が何の音なのかくらい、もう「彼」と何年も共に暮らしているシュトロイゼルには理解できていた。
「少し待ってくれないか。支度がまだ出来ていないんだ」
そうして、朝支度をするのも、いつものことだ。
手早く寝間着から私服に着替え。廊下へと繋がる扉を開いた。
「おいで、クルール」
やはり、間違えることもなくそこにいたのはクルールで。
かたん、かたん、とリズミカルに扉を叩いていたらしいクルールが、そのまあるい瞳をシュトロイゼルへ向ける。
「食事か? ……菓子か?」
「あはは、大丈夫。きちんと食事を取るよ」
「うむ。よいことだ」
うむうむ。
クルールは頷きながらとてりとてりとキッチンの方面へと歩みを進めた。
それに続いて、シュトロイゼルも歩き出す。
「エレにも怒られるようになったからな」
ふふん。エレには頭が上がらないようだな。
こんな色をした声を、シュトロイゼルは知っていた。知った顔の宮廷魔導師のふたりがよくする、所謂。
(……いたずら好きの声)
シュトロイゼルは苦笑いをこぼした。
「エレくんに心配はかけられないからね」
と。
クルールのからかいを多分に含んだ声が、一気に拗ねたものに変わる。
「……それだと、我には心配をかけていいと……」
「あ、いや、そういう訳じゃ」
ないんだよ。
と、言いたかったのだが。そこまで言う前にクルールはすっかり腹を立ててしまったようで。
(……また拗ねさせてしまった)
何を問いかけても答えてくれなくなってしまったクルールに、困ったなあとシュトロイゼルは眉を下げた。
たどり着いたキッチンでも、どん、と椅子に座り込んで。
「朝ご飯は何がいい?」
「……」
「クルール?」
「……」
……こんなに機嫌を損ねてしまったのは久しぶりだな。
そう思いながらも、シュトロイゼルは魔法の準備をする。シュトロイゼルの魔法は、下準備がいるのだ。
用意したのは、粉だ。種類はなんでもいい。「粉」さえあれば、シュトロイゼルはそこから「料理」や「お菓子」を生み出すことが出来る。
今日用意した粉は、少々辛味を伴う粉だ。シュトロイゼルは辛味を意外と好んでいた。よく使う粉のひとつでもあるその粉と、宮廷魔導師のふたり組……ニュイとルージュが定期的に仕入れてくれる「砂糖」を混ぜる。
「……」
そうして、少し集中して。魔力を練り上げれば。
「ほら、朝ご飯だよ」
ちょっぴり辛味のきいた、ピザの乗ったトーストの完成だ。
す、とクルールの前に差し出せば。
「……」
クルールはそっぽを向いたまま、トーストに目もくれない。
「……エレくんに怒られてしまうよ」
「お前がな」
ほんの少しいたずらっ子の色を含んだ声が、困った様子のシュトロイゼルを軽くあしらっていく。
こうして、シュトロイゼルとクルールの日常は始まるのだった。