しあわせのレシピブック

エレとニュイ

「お掃除お掃除お洗濯~」
 てきぱきとエレはシュトロイゼル先生の家の家事をします。いつも通りのお仕事、丁寧に丁寧に。足取りも軽く。
 シュトロイゼル先生の家の庭。お洗濯をひと通り終え、エレは額を拭います。今日も良い天気です。空は抜けるように青く、爽やかな風が吹き抜けています。
「平和ですわね……」
 ぽつり、エレが呟きます。ただただ平穏な、あたたかい日です。
 と。
「やあ、エレ」
「あら……ニュイ様。今日はルージュさんはご一緒ではないのですか?」
 家の玄関口の方から手を振っているニュイを見て、真っ先にそれがエレの口から出てきました。ニュイとルージュが一緒にいないのは、エレからすると本当に珍しいことでした。
 とてとてと庭の方に回って来たニュイがエレに微笑みかけます。
「ルージュは王子のお手伝いをしてるから、わたしひとりなんだ」
「なるほどですわね。相変わらずです」
 ため息を吐きたくなるほどいつも通りの彼らに、エレは思わず苦笑いを浮かべました。ニュイもつられたのか、くすくす笑っています。
「ね、みんないつも通りだよ」
「そうですね。ですが、とても良いことですわ」
「うん。とても良いことだね」
「あら、わたくしの言うことまで復唱しなくても良いのに」
 くすくす。とても楽しそうにニュイは笑っていました。
「ふふ。つい、ね。それに、わたしも同じことを思っていたから」
 ふわふわとした笑顔はエレにも好ましいものでした。……どちらかと言えば、愛玩動物にするような好ましさでしたが。
「ニュイさんはかわいいですわね~よしよし」
「おや、かわいいなのかい」
「かわいいです」
「そっか。エレが言うならかわいいでもいいかなあ」
 ほわほわとした空気が流れる中、エレに頭を撫でられるニュイはとても穏やかに目を細めていました。
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