しあわせのレシピブック

エレとタルトレット

「道具作りならキュイーヴルじゃないか?」
 タルトレット様はもぐもぐとフルーツを頬張りながら言います。
 良いアイデアを思い付いたと狂喜乱舞をしているエレをシュトロイゼル先生とクルールが落ち着かせたところで、良いとこ取りのように現れたタルトレット様。一応正式な用事があって来たらしいのですが、リラックスモードらしくフルーツを躊躇いもなくもぐもぐし始めました。
 それでも質問すれば心当たりの国が出てくるのは外遊好きのタルトレット様らしくあるのですが。
「キュイーヴル……」
「そう、金属文化の国だ。料理に使うなら木製よりは金属がいいだろう」
「なるほどですわね」
 タルトレット様は欠伸をひとつ。
「ロイとエレが行くなら紹介のひとつはしたためておくが、どうする?」
「……ん?」
「ん、ってなんだ。んって」
 ぽやんとした顔のまま、タルトレット様がシュトロイゼル先生に問いました。シュトロイゼル先生はまだ状況を理解出来ていない顔をしています。
 タルトレット様はにへらと笑いました。
「ロイも行くんだろう?」
「私も?」
「そりゃそうだろ、エレをひとりで行かせるつもりか?」
「それは……そうですが」
「なら行けばいい。学校の方にも私が口利きしてやるから」
 ……だが。
 小さく呟くと、タルトレット様はエレに向き直ります。
「エレの意思もあるからな。どうだ?」
「わたくし、の?」
「ああ、行ってみたいか?」
「わたくしは……」
 エレは一瞬口を閉じました。しかし、すぐに瞳は輝き、口は軽やかに言葉を紡ぎます。
「はい! わたくし、行ってみたいです! キュイーヴルに!」
「よし、なら決まりだな。私の方で支度は整えておこう」
「本当に何から何まで……ありがとうございます」
「礼はいい。私が好きでやっているだけだ」
 タルトレット様の笑顔が今のエレには輝いて見えました。
 ……そんなこんなで。
「……私はまだ行くとは言っていなかったのだけれどね」
 小さく独りごちるシュトロイゼル先生でしたが、そんな言葉は今のエレには聞こえなくても良いことで、他でもないシュトロイゼル先生もエレには聞こえていなければいいと思っていたのでした。
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