しあわせのレシピブック

クルールの日常ぱーとわん

 ここは、シュトロイゼル先生の家の庭。
 その広い庭は、家の中とは比べ物にならないほどに丁寧に手入れされていることがわかって。
 ……何故この丁寧さを家の中にも向けられないのでしょう。だなんて、思ったりしながらも。
 今のエレは、それどころではなかったのでした。
「くああ」
 ……。
「てしてし」
 ……。
「うなー」
 ……。
 ……エレは、不思議な生物。自称「珍獣」であるクルールさんのことをじっと見つめていました。
 眠たいのか、うつらうつらしながら。ときおりあくびをして。
 長くて、またもふもふなしっぽがたしたしと地面を叩き。
 謎の鳴き声を上げて。
 ――はっきり言えば。
「かわいい……」
 クルールさんはエレの琴線には触れたようで。家事代行の休憩時間にはクルールさんを眺めるのがエレの日課になっていました。
 ……かわいい。かわいいのです。でも触ったら怒られてしまうのです。けれど、怒ったクルールさんもかわいらしいのです。
 ああ、なんというジレンマ。
 そんな風に、きらきらした目でクルールさんを見つめていると。
「エレくん」
「っ!?」
 声を上げそうになって、エレは自分の口を押さえました。
 そのまま後ろへ振り向けば、そこにいるのはもちろんシュトロイゼル先生でした。
 シュトロイゼル先生も、エレに向けていた視線をクルールさんに向けて。
「ずいぶん気に入ったようだね」
「ええ、とても。……クルールさん、一体どんな動物なのですか? あんな動物、見たことありませんわ」
 そう、きらきらした目でエレが問えば、シュトロイゼル先生は困ったように首をすくめます。
「わからないんだ」
「……?」
「この屋敷に元々住み着いていたんだよ。……クルールが言うには「なにかしなければならないことがある」らしいんだけれど」
 そう言って、シュトロイゼル先生は首をかしげ。またエレも首をかしげました。
「……だが、」
「でも?」
「研究のしがいはあると思っている。あのような不思議な生き物……」
「あ、あんまり痛い研究はしないでくださいませ……?」
 今度はシュトロイゼル先生の目がきらきらとし始める。
 しかし、戸惑いがちに言うエレの言葉はちゃんと聞いていたらしく。頷きを返してくれた。
「む。エレとロイか。そんなところで何をしている?」
「ああ、なんでもありませんよ。ねえ、エレくん」
「え、ええ……」
 と、ようやくエレとシュトロイゼル先生の存在に気がついたらしい。
 眠そうな半目で問いかけるクルールに、誤魔化すようにそう告げたシュトロイゼル先生。
 思わずエレも同意してしまいましたが……。何故、誤魔化す必要があったのでしょうか。
「……やはり変なやつらだな。お前たちは」
 くああ、もう一度あくびをして。クルールはこっくりこっくりと船をこぎます。
 それを、エレとシュトロイゼル先生はじっと見つめていたのでした。
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