憧れの街で凄腕脳外科医の契約妻になりました。
「どうぞ」
コーヒーをいただき、お母さんは私達の目の前に座った。視線は私の左手の薬指に注がれており、「急だったわね」と、私と和登さんに目線を向けた。
『急だったわね』が何に対しての急かはすぐに分かった。結婚の報告のことだろう。
「あら、どこのブランド? ダイヤはついていないの?」
不思議そうに首を傾げるお義母さん。和登さんに「収入良いくせに安物買ってるんじゃないわよ」と、指摘した。
「いえ、お義母さん。私が和登さんにこれがいいと無理を言ったんです」
和登さんが話し出す前に自らお義母さんにそう告げると、お義母さんは「指輪は大事よ?」と、私を見て忠告した。
完全に自己紹介をするタイミングを失った私は、この場で半ば強引に自己紹介をする。
「あの、急にお邪魔してスミマセン。咲村亜矢と言います。この度、和登さんと結婚させていただくことになりました」
深々と頭を下げると、先ほどまでにこやかだったお義母さんの顔が引き攣っていた。
「…………咲村?」
そんな表情を見ながら「はい……」と、小さく答えると、お義母さんは和登さんに視線を移し、和登さんを強く睨んだ。
この態度。お義母さんも私の祖父のことを知っている、そんな気がした。
祖父のことを聞いて良いのか言葉を詰まらせていると、和登さんが私達の話に割って入った。
「そう。俺が昔、入院してた病院に咲村さんって同室のお爺ちゃんがいただろ。亜矢ちゃんはその人の孫なんだ」
空気が重い。
嬉しそうにしているのは和登さんだけだ。
お義母さんは祝福なんてしてくれていない。