憧れの街で凄腕脳外科医の契約妻になりました。
使用人の女性はお義母さんの斜め後ろに立ち、私に睨むような視線を向けている。
お義母さんからも、使用人の女性からも、どう見ても歓迎されていない。
「その際は祖父が大変お世話になりました」
また深々と頭を下げると、和登さんから「そんなにかしこまらなくてもいい」と、頭を上げるように言われた。けれど、そういうわけにもいかない。
だって私は全然歓迎されていない。私達を見たお母さんは、
「そう、あなたが……そうなのね」
と、独り言のように頷いた。
「私の夫は有名な会社の社長です。和登が産まれて、夫の会社は和登が継ぐものだと思っておりましたが、和登はあなたのお祖父様の死をきっかけに医者を目指すようになりました」
お義母さんは和登さんに寄せていた思いと、過去を語り始めた。
「脳外科医という職業は簡単になれるものでもなければ、お金だけをたくさん支払ってなれるものではありません。私達は、このベリが丘の街の人を救う和登を誇らしく思います。ですが、本音を語ると、和登に夫の企業を継いでほしかった」
絶望にも近い言葉。
まるで『あなたの祖父が和登の運命を狂わせた』と言われているみたいで酷く胸が痛む。
「母さん、なんで今その話をするんだよ! 亜矢には関係ないだろ」
「なんでって、この女性があの咲村さんのお孫さんだからでしょう? まあ、ダイヤも付いていない指輪を渡すくらいだから、和登も本当に好きというわけじゃなくて同情で結婚に至ったんでしょうけど」