憧れの街で凄腕脳外科医の契約妻になりました。


 一刻も早くこの場から逃げ出したかった。

 けれど、和登さんは私の手を握り離そうとしない。

 『大丈夫、俺がついてるから』そう言われているような錯覚を起こしてしまう。

 けれど、お義母さんを見ていると和登さんがついてても、どうにかできる気がしない。

「もういいよ。賛同してくれないなら勝手に籍いれるから。婚姻届の保証人の欄に名前いただきたいと思ってただけなんで。あ、あと苗字も俺と亜矢に『羽倉』って名乗られるの嫌だと思うから、俺『咲村』の苗字引き継ぐんで、俺との縁は切っていただいて大丈夫です。それではお邪魔しました」

 お義母さんに反論させることなく、一方的に感情を押し切った和登さん。

 私のせいで羽倉家の縁が切れそうになってしまっている。

「ちょ、ちょっとまってちょうだい! 和登はなんで昔からそう頑固なの! 少しは気持ちに余裕を持ちなさい! 咲村の苗字を引き継ぐだなんてダメ! 羽倉家はどうなるのよ!?」

「俺はいつも気持ちに余裕持ってるつもり。余裕がないのは母さんだろ。あいにく俺は忙しいんで。ダラダラと結論が出ない話し合いをする気もないし、親父の会社の心配なら弟の弘がいるだろ。いい加減、ニートなんてやめさせて会社を継がせれば」

「勝手なことを言わないで! なにバカなことを言ってるの! そんなことできるわけないでしょ!? お父さんの会社を継ぐのは和登しかできないのよ!?」

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