憧れの街で凄腕脳外科医の契約妻になりました。


 横を向きたいのに『羽倉先生』と言葉が発せられたことにより、緊張で確認できない。

 カクテルやパスタに口を付けることなく、莉緒香に目線を向けていると、莉緒香が「きたよ!」と教えてくれた。

 や、やっぱりそうなんだ。今、隣にいるのはあのテレビで見た羽倉先生なんだ……

 私のバッグには羽倉先生の本が入っている。ペンもちゃんと入れてきた。サインがほしい。けれど、本を出す勇気がない。固まっていると先生達の会話が耳に入ってきた。

「いやいや、皆さんのおかげですよ。特に柳先生は患者様の急変にいち早く気づいてくださるんで、僕は手術ができているんです」

「なにをおっしゃいますか! 執刀医は羽倉先生なんですから、羽倉先生が一番に決まってるでしょ!」

「いや、一番は患者様なんで。患者様の声をいち早くキャッチできる柳先生が手術室ではエースですよ。麻酔科医無しでは手術はできませんから」

「えー、そうですかあ? いっやー、まいったなー」

 麻酔科医の先生と思われる人と、羽倉先生の会話が聞こえてきた。その会話を聞いて、羽倉先生の近くにいる女性の笑い声も聞こえてくる。


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