憧れの街で凄腕脳外科医の契約妻になりました。
2.憧れの人
手術の内容は何の話をしているのか全く分からなかったけれど、羽倉先生が凄く難しい手術を成し遂げたということは、先生達の話を聞いていて分かった。
こんな状態で羽倉先生に話しかけるなんて無理……
「ね、ねえ……莉緒香。もう帰ろう?」
隣に聞かれないようにこそっと問いかけると、
「まだ来たばっかりじゃない。羽倉先生にも会えたのになんで?」
莉緒香もこそっと返してくれた。
「無、無理……緊張で飲み物も飲めないし料理も食べれないよ……」
感極まって泣きそうになっていると、「もー!」と呆れた顔をして莉緒香は席を立ち上がった。私も急いで席から離れる準備をしていると、あろうことか、
「あのー、もしかしてベリが丘総合病院の先生達ですか?」
莉緒香はこの状況にも根負けせずに、隣の席に座っている先生達に話しかけた。
先生達は莉緒香を見てキョトンとした顔をしているが、すぐに「あはは、聞こえちゃいましたかーすみません、うるさくてー」と、綺麗な女の人が莉緒香に両手を合わせて謝罪している。
女の人の隣に座っている男の人が、
「仁田先生の笑い声が一番うるさいですよ」
と注意していることから、女の人も先生ということを知ることができた。
綺麗すぎるため記者か何かかと思い込んでいた。
「い、いえ、そうではなくて……この子が羽倉先生のファンで……よかったらサインいただけないかと思いまして……」
莉緒香が言葉を濁しながら、私に向かって「ほら、立って!」とイスから立つように急かした。