憧れの街で凄腕脳外科医の契約妻になりました。
急なことでビックリして、
「は、はい!」
声が裏返る。そんな私を見た羽倉先生は微笑んでいた。
か……かっこいい。
今だったらお願いしても断られないかもしれない。
すぐに自分のバッグから今日買った羽倉先生の執筆本を取り出し、「本買いました!」と、先生達に見せる。
「ありがとう。持ち歩いてくれてるの? 嬉しいなー」
羽倉先生は目を輝かせながら私に「サインだったよね、おいで」と合図を出してくれたため、本屋の隣のダイソーで買った黒のペンを持って羽倉先生の元へ駆け寄る。
先生はマジックペンのバーコード部分に貼られている「ダイソー」のシールに首を傾げた。
「……ダイソー?」
「あっ! すみません! 本屋の隣で買ったばかりで……剥がし忘れちゃって」
「ああ、いや。ベリが丘にダイソーはないなって思って……よそから来たの?」
「は、はい。そこの友達がこのベリが丘に住んでいまして、遊びに来てって誘ってくれたので……こんな綺麗な街に貧乏人が敷居を跨いでしまってすみません……」
先生にこんな安物のペンを握らせるのはダメだった。配慮が足りなさすぎた。
羽倉先生の手からペンを取り戻そうとすると、先生は私が両手で抱えていた本を手に取り、「そんなことないよ。どんどん遊びに来てよ。名前なんていうの? 教えてくれる?」と、おもて表紙を捲りながら私に質問した。