憧れの街で凄腕脳外科医の契約妻になりました。


 私が腰を抜かしたと同時に、和登さんは私の側から離れた。

「また夜にね。赤間さんを迎えに行ってくる」

 後腐れなく、何もするつもりなかったのに、和登さんはそうはさせてくれないらしい。

 正直、和登さんと一緒にいて、ずっとドキドキしているし、輝いて見えてしまうその容姿は未だに変わっていない。和登さんを知れば知るほど好きになっていく。

 気持ちがいつも置いてけぼりの状態だ。

 赤間さんを家に招き入れた後、和登さんは家の鍵を渡していた。部屋の説明をし終えた和登さんは赤間さんに、

「寝室と俺の部屋と亜矢の部屋は掃除不要なんで。あと、俺と亜矢は夫婦なんだから、夜のそういう声はもし聞こえても見逃してね」

 と律儀に伝えていた。

 和登さんのこういうところが驚かされる。

 和登さんは何でもかんでも恥じらいなく伝えてくる。口下手で話が上手いわけじゃない私は幼少期から聞き役で、和登さんのそういうところにはいつも驚かされる。 

 赤間さんは思い出したように口を開いた。

「引っ越しをする際亜矢様のご両親が亜矢様をお見送りにいらっしゃいましたが、脳ドックの診断が出たら教えてほしいとおっしゃっておられました。亜矢様が脳ドックを受けるというのは事実でしょうか?」

 私と両親が会話しているところをしっかり聞かれてしまっていた。

「ああ、うん……」

「亜矢様の脳に何かしらの負担がかかってはいけないです。なので、診断結果が分かるまで亜矢様のお立場で動いていただきますよう、よろしくお願いします」

 赤間さんの返答に、ハアーと、その場で腰を抜かした和登さん。和登さんが言い負かされる光景が少しおもしろかった。


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