憧れの街で凄腕脳外科医の契約妻になりました。
お爺ちゃんは私がまだ四歳だった頃、脳の病気で亡くなった。
祖父はとても優しかったことを覚えている。私の面倒は祖父がほとんど見ていたと母から聞かされていたし、私自身もよく遊んでもらっていた。
祖父と一緒に写った写真は今も大切に取っている。けれど、何故そのことを羽倉先生が知っているの?疑問に思いながらも、
「祖父は私がまだ四歳だった頃、脳の病気で花岡総合病院に入院しました。そして、花岡総合病院で息を引き取りました。祖父の病名がどうだったのかは覚えていませんが……それが何か?」
そう尋ねると羽倉先生は『やっぱり』と言いたげな様子で頷いた。
「僕もね、花岡病院に十三歳の時に入院してたんだ。咲村さんとは同室でね、いろんな話をしてくれたし、亜矢ちゃんのこともたくさん教えてくれたし、写真もいっぱい見せてもらった。だから、亜矢ちゃんの話を聞いて『もしかして』って思ったんだよね。サインがイヤとかそういう理由で戸惑っていたわけではないから、変な気を遣わせてごめんね」
祖父のお見舞いに行くと、中学生くらいの男の子が祖父と同じ病室に入院していたことを思い出した。
「……あ、いえ……あ、あの、その節は祖父が大変お世話になりました。祖父のことを思い出していただいてありがとうございました」
そう頭を下げると羽倉先生は『お世話になったの俺の方』と、微笑んだ。
……羽倉先生の一人称が『僕』から『俺』に変わった。