憧れの街で凄腕脳外科医の契約妻になりました。
この日は気を紛らわすかのように、いつも以上に仕事に打ち込んだ。帰宅すると、いつにも増して豪華な料理が食卓に並んでいる。
「亜矢、赤間さん。いつもありがとう」
そうお礼を言うと、赤間さんが「今日の食事は亜矢様が一人で作られたのですよ」と報告してくれた。
「亜矢、ありがとう」
そうお礼を口にし食卓のイスに腰かける。
亜矢の手料理はどれも美味しかった。
頑張って時間をかけて作ってくれたんだということが、手間がかかっている料理達を見て思う。食事を終えお腹いっぱいの俺の前に亜矢が「和登さん、話が……」と、言いにくそうに口を開いた。
ーー今日の脳ドックのことだろう。
そう思って座り直すと、亜矢は俺の前に一枚の用紙を差し出してきた。その緑の用紙には『離婚届』とかかれてある。
「……は?」
なんだ、これ。
唖然とする俺に亜矢は表情を変えないまま、
「脳ドックの診察は終わりました。半年経ちましたので用意させていただきました。記入していただけますか?」
離婚届に記入するよう、お願いしてきた。