憧れの街で凄腕脳外科医の契約妻になりました。
「ベリが丘駅に向かってくれる?」
莉緒香はドライバーに駅まで行くように伝えた。駅に着くまでの間、無言で恐怖しか感じられない時間が流れる。
「あの……莉緒香、言い難いんだけど一万円でもいいから返してくれないかな。私、一週間所持金ゼロでは過ごせないし、逆に莉緒香に迷惑かけることになっちゃう」
「二駅くらい歩けばコンビニあるし、そこで貯蓄してる残りのお金を引き出せばいいじゃない」
『二駅くらい歩けば』その言葉に嫌な予感が頭を過ぎる。
……まさか、莉緒香は私を駅で降ろそうとしているんだろうか。だとしたら、いくら気分が悪かったとしてもそんなのはあんまりだ。
莉緒香は結婚していい方に変わってくれたと思っていた。Barに羽倉先生達が来る前まではとても楽しく過ごしていたのに。
それなのに、根本は何も変わっていなかった。
駅に着き車から降りると、後ろのトランクを開けたドライバーは、私のスーツケースを手に取るなり渡してきた。
「……あ、あの、私が口を挟むことではないとは思うのですが……これはどういう……?」
「私が悪いんです。莉緒香を怒らせてしまったので」
「そ、そうですか。莉緒香様が大変失礼致しました。あの、お金はお持ちですか? 先ほどお金のことを気にされていた会話が聞こえてきたので」