憧れの街で凄腕脳外科医の契約妻になりました。
この後どうやって帰ろうか悩む気力もなく、ひたすら羽倉先生の本を読んでいると、
「あー、いたいた! 亜矢ちゃーん!」
聞こえてきた声の方向へ顔を上げる。
先ほどBarでお話しした女医さんが遠くから声をかけてくれた。
「……え、な、なんで」
「あのBarさ、外から中は見えないけど、中から外は見えるんだよね。で、中から亜矢ちゃん達を一部始終見てたんだけどさ、あの子に財布から札束を取られてたから心配になっちゃって……」
……最悪だ。よりによってあの光景を見られていただなんて。
「お恥ずかしいところをお見せしてしまってスミマセン」と謝ると、「あれってどういうこと? ここ冷えるから車においで」と、私の手を引いてくれた。
それだけで心が温まり涙が目に滲んで溢れる。
心配して見に来てくれて、声を掛けてくれたことがとても嬉しかった。
「……ッ」
泣いているのがバレないよう服の袖で涙を拭う。
すると、目線の先に白の高級車が一台止まっているのが見えた。
女の先生から助手席のドアを開けられたため乗り込むと、「やっほーい」先ほどの麻酔科医の男の先生が後部座席から顔を出した。
ここにいるということはこの先生も莉緒香との光景を目の当たりにしたのだろう。
恥ずかしくて、情けなくて、また涙が溢れた。