憧れの街で凄腕脳外科医の契約妻になりました。
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仕事を終え、いつものように羽倉チームの麻酔科医の柳先生と脳外科医の仁田先生と、行きつけのBarに足を運ぶ。
――といっても、医者である俺達が頼むのはお茶や水だ。
今日は俺のファンという子からサインを求められた。本まで持参してくれていて、ありがたいなと思いながら受け取る。『サインをしてください』と言われることは多いし、最初に比べたら俺の受け答えも悪くないように思う。
本来ならサインは断り握手だけで済ますのだけれど、今日はなんとなく気分がいい。
「名前なんていうの? 教えてくれる?」
俺の質問にファンの子の顔が強張った。
緊張しているのが伝わってくる。何だろう、この子を見ていると懐かしい気持ちになる。
「あ……亜矢です。亜鉛の亜に弓矢の矢で亜矢って言います」
ファンの子は俺に名前を教えてくれた。
……亜矢。いや、どこにでもいる名前だしな、と思いながらも苗字も聞く。苗字は『咲村』と言われた。
…………咲村?
今、目の前にいる子の名は『咲村亜矢』。
……ま、まさか、いや、そんなことあるはずない。この子があの亜矢ちゃんなわけない。同姓同名なだけだ。でも、こんな偶然あるんだろうか。
ただの偶然で終わらせたくなかった俺は、亜矢と名乗るファンの子に、「未破裂脳動脈瘤のお爺さんとかいた?」と聞いてしまった。